番外編1-9 家族愛⑨
そして、戦意を衰えさせないラースファルガを見て、神太郎もまた苦悶の表情で正拳突きの構えをせざるを得なかった。
両雄に漲っていく気迫。それは城壁上のルメシアたちにも感じ取れた。更に、次の激突で勝負が決まることも。
静寂が包む戦場。それを最初に破ったのは………………ラースファルガ!
死の閃光!
溜めを隠したノーモーションからの奇襲発射だ。神太郎は直撃を受け、閃光はそのまま後方の城壁にも迫る。仙熊が慌てて防御魔術を張って難を逃れるも、その破壊力を示すかのように一直線に地面を大きく削り取っていた。
彼を残して。
神太郎は全く微動だにせず身構えたまま。鉄壁。不死身。難攻不落。その姿は、正に最強の門番である。そして、ラースファルガが決死の突撃を選ぶと、彼もまた真正面からそれを迎え撃った。
迫る巨体。
開かれる口。
剥かれる牙。
放たれる拳……。
互いの信念を込めた一撃が激しくぶつかり合う。
空に轟音が迸り、地に震動が走る。二つの暴力によって発生した衝撃波が辺りを吹き飛ばし、大きな砂埃を巻き起こした。ルメシアとユリーシャたちは胸壁に身を隠し、砂の突風を凌ぐ。それでも、今の二人の胸中は自分の心配ではなく想い人の無事を祈ることだった。
……。
……。
……。
やがて突風は収まり、砂埃が消えていく。
そして、衝撃波の中心地から現れたのは……、
仁王立ちの神太郎に……、
牙を圧し折られ完全に伏したラースファルガ……。
つまり決着である。
「しんたろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
歓声を上げる彼の恋人たち。次いで、周りの仲間にもそれが伝染する。更には北門衛士の同僚たちも応え、最後は民たちも喜びの声を上げた。
三好神太郎は再び国を滅亡から救ったのだ。
尤も、それは功名心や自尊心からではない。あくまで義務だから。無表情のまま民たちの喜びの声を背に受ける彼は、見事なまでに門番である。
……ただ、神太郎が無表情なのは、彼だけがまだ収まらないと思っていたからだ。伏したラースファルガであるが、その目には未だ戦意が残っている。草臥れたその身体を起こそうとしていた。
「もう十分だろう……」
神太郎とて、これ以上殺さずに済ませるのは難しかった。あとは、もう屠るしかない。
「家族と一緒に帰れ」
そして、ここで殺すということは、彼が今まで貫いてきた望むがままに生きるという信条を曲げることになるのだ。つまり敗北である。
「お願いだ」
もう何度目の懇請だろうか。だが、何度頼もうが彼は憎き人間。ラースファルガが聞き届けてくれるはずがなかった。
……。
……。
……。
それが出来るのは、心の通った家族しかない。
「クゥーン……」
聞こえてきたのは弱々しい鳴き声……。それはラースファルガの子供による親への制止だった。これ以上、自分の家族が傷つくのが堪えられなかったのだろう。
その物悲しげな声が、親から戦意を奪い、妥協に誘う。そして、その目からやっと怒りが収まるのを認めると、神太郎もまたやっと安堵の息を吐けたのであった。
それは城壁上からも確認出来た模様。
「全く、アイツは……。収まったからいいものの」
そう呆れながらぼやいたのは仙熊。結果的に国家滅亡は防げたものの、あのやり方はあまりにも甘過ぎだと感じていた。この分では、神太郎を要職に付けて三好家独裁を成す計画も見直さなければならないだろう。
だが、程なくして、間違えていたのは彼の方だったことを思い知らされる。
最初にそれに気付いたのはネクスタリアだ。
「……あ」
空を指す彼女。それに釣られ、皆がそちらに目を凝らすと……何かが飛んできた。
それは………………ラースファルガ!?
何と、もう一頭現れたのである。
いや、一頭ではない。
更に一頭。またもう一頭。否、五頭、十頭、二十頭、五十頭、百頭……。
その光景は全ての者を驚愕させた。
空一面を覆い尽くすは、ラースファルガの大群。
「多分、家族総出であの子を捜していたんだね」
冬那が言った。確かに、その群れが親子の周りを穏やかに周回しているのを見せられれば、そう信じられもする。また、それは次のような事態もあり得たということ。
「つまり、あの親を殺していたらあの群れに報復されていたってことよねー」
千満がそう突っ込むと……、
「あんな大群に襲われていたら、流石にどうしようもなかったぞ。キダイ王国は滅んでいたな」
又四郎も同意。
「ね? 仙兄に従わなくって良かったでしょう?」
更に、冬那まで。こうも兄弟たちに否定されれば、仙熊も「ムムム……」と気まずそうに口篭るしかなかった。
一方、神太郎もその圧倒する光景に感嘆していた。しかし、敵意は感じ取れなかったので焦りはない。いや、寧ろ感謝をしていた。
結局、この国を救ったのは彼ではなく、親を宥めたラースファルガの子供。この事件の一番の被害者だったのだ。
その寄り添う親子に、神太郎は心から感謝を示す。
「ありがとう。この礼は必ずする」
通じたかどうかは分からない。ただ、親子は彼を一瞥すると穏やかに飛び立つのであった。
群れと共に彼方へと消えていく二頭を見送りながら、彼もまた自分の居場所へと帰る。北門をくぐると、出迎えてくれたのはこの世界に一緒に来た家族たち。
「ご苦労様」
千満を始め、兄弟たちが労をねぎらってくれると、神太郎は少し疲れ気味の笑みを見せた。何せ、今回は実に気苦労を強いられたのだから。
すると、それを癒すかのように二人の少女が抱きついてくる。この世界に来て新しく出来た家族である。
彼の無事を喜ぶようにしがみつくルメシアとユリーシャ。神太郎もまた優しく抱き返してその想いに応えた。互いに言葉を発さなかったのは、その必要がなかったから。
前の家族と共にこの世界に来て、新しい家族にも恵まれた。自分は幸せ者である。あのラースファルガの家族愛を見て、神太郎はよりそう思った。
そしてその運命に感謝しながら、こう口にするのだった。
「家族ってのはいいものだ」
―家族愛・完―
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