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番外編1-7 家族愛⑦

 一方、子供の相手は姉妹の役目。男兄弟が親の相手をしているうちに治療を済ませなければならなかった。


「冬那、まだ?」


「焦らない、焦らない」


 年上の千満が焦燥しょうそうさせてくるが、年下の冬那はいつも至って冷静。慎重に子供を診断し、慎重に薬の調合をしている。


「千満姉はいつもそう急かす。少しはお淑やかになった方がいいよ」


「なっ!? 失敬な。私は社交界で最も名を馳せている貴婦人よ」


「私のところにも噂は届いてるよ。……別の意味でね」


 そして、優秀な妹は姉の要望に応えるかのように、早々と注射の準備を整えてみせた。あとは打つだけ。但し、それには問題がある。


「ただ、魔獣の皮膚が硬過ぎて針が通らないのよね」


「え? どうするの?」


「だから中から打つ。千満姉、この子の口を開けさせて」


「えぇ!?」


「早く」


 今度は妹の方から急かされる。常に冷静な彼女からそう請われると、姉も否応なし引き受けざるを得なかった。相手は子供とはいえ五メートルの巨体。千満は女の子らしく恐々と開口を試みるも、その口はビクともせず。恐らくワニのように噛む力が異常に発達しているのだろう。


「千満姉、こんなところでも淑女のフリはしなくていいから、早く」


「フリって何よ、フリって。これが素の私よ!」


 だから、淑女らしからぬパワーで無理やりこじ開けた。そのトカゲのような口を開かせれば、開口幅は七、八十センチほど。人ひとり簡単に飲み込めそうである。そして、冬那は本当に上半身をその中へ入れていった。可愛い妹の大胆な行動に、神太郎は気が気でない。


「姉ちゃん、ちゃんと抑えておけよ。冬那が食べられちまう」


「分かってるわよ!」


「あ、でも加減しろよ。姉ちゃんのパワーだと簡単に顎が外れそうだ」


「分かってるわよ!」


 不安だ。しかし、今は姉に託すしかない。神太郎にはやるべきことがある。


 そして、早速それがやってきた。


「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 彼方から鏑矢かぶらやのように声を上げて飛んでくる黒い物体。神太郎がナイスキャッチすれば、それは又四郎だった。向こうでもまた吹っ飛ばされたらしい。


「手を貸そうか?」


 弟の足首を掴んで逆さまに持ち上げる兄がそう問うと……、


「ま、まだ……やれる」


 弟は目を回しながら強がりを言った。ただ、神太郎も彼のことはそこそこ信頼している。又四郎はバク転して華麗に着地すると、腕を回して余裕を演じた。


「久しぶりの戦いなんで、ちょっと勘が鈍ってたみたいだ。もう大丈夫」


 そこにラースファルガが再来襲。又四郎を目掛けて高速で飛んでくる。しかも、そのまま激突する気のようだ。そうなれば広場周辺の崩壊は免れない。


「おいおい、自分の子供まで殺しちまうぞ」


 対策が思い浮かばず困惑するただの門番。片や、S級暗殺者は違う。


「任せろって、《レイフィッシュ》!」


 彼が掌から放ったのは、魔術士たちが使っていた光弾魔術。ただ、拳大だった彼らとは違って、それは直径十メートルに及ぶ巨大なものだった。流石のラースファルガも直撃を受ければその巨体を弾き飛ばされる。その上、それに留まらず。


「オラァ! ついでの《パイロフィッシュ》!」


 今度は火弾攻撃。


「《アイシフィッシュ》!」


 更には氷弾攻撃。


「《サンフィッシュ》!」


 雷弾攻撃……と、強力な魔術を徹底的に撃ち込んだ。今まで能力を発揮する機会を得られなかったから、ここぞとばかりにその鬱憤を晴らしているのだろう。神太郎も打ち上げ花火を見ているかのように、楽しんで鑑賞してしまった。お陰で、辺りは爆煙塗れ。市民の避難が済んでいたのは幸いである。


「やったか!?」


 そして手応えを感じた又四郎は、初勝利のガッツポーズを取るのであった。


 ……が、


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 聞こえてきたのは、天を裂くような猛々しい雄叫び。次いで、晴れた煙の中から現れたのは健在のラースファルガ。流石は伝説の魔獣。簡単に勝利宣言はさせてくれない。


「今、すごーいカマセ臭い台詞せりふ吐いたな」


「て、手加減し過ぎたか……」


 兄の率直な突っ込みに、弟は苦笑ながら弁解した。


 次いでターン制とばかりに、今度はラースファルガが魔力を溜め出した。巨大な口が開き、その中が死の光で輝き出す。あのビーム攻撃だ。しかも、取っておきのものをかましてくれるよう。


「マズイ、マズイ、マズイ、あれはマズイぞ。又四郎、バリア張れ! バリア!」


 焦る神太郎。自分のことはともかく、この位置だと冬那たちまで巻き込まれる。ここは魔術が使える又四郎頼みだ。……が、


「いや、そういう魔術は使えない」


 彼はガッカリさせる返答をしてくれた。


「何で!?」


「だって……暗殺者だから、攻撃は最大の防御だと思って……」


「お前、何のためのレベル999だよ! 覚えておけよ!」


「うるせー! 神兄ちゃんこそ魔術使えないくせに! ついでに、俺のレベルは9999だよ!」


 怒鳴り合う兄弟。されど、そんなことをしている暇などない。というより、彼らに出来ることなど元々なかった。



 発射!



 白くなる視界。


 急上昇する気温。


 消え行く大地。


 建国の象徴、凱旋広場は一瞬で蒸発した。


 全ての者に生きることを許さない、死の閃光によって。


 ……。


 ……。


 ……。


 ……だが、


「お?」


 それでも神太郎たちは生きていた。


 それは、三好兄弟最後の一人が駆けつけたから。


 愛しき兄弟の楯になったのは長兄、三好仙熊。彼の張った半円状の防御魔術が見事に閃光を防ぎ切り、皆を生き長らえさせたのだ。


 三好五兄弟、遂に揃い踏みである。

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