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番外編1-6 家族愛⑥

 王国建国の象徴、凱旋広場。そこは、ラースファルガ来襲から僅か五分で見るに堪えない有様になっていた。不気味な静寂が場を包み、あるのは瓦礫と燃える残骸ばかり。上空のラースファルガも、人気ひとけのなくなったこの広場から街の方へと意識を移している。だから、今がチャンスだ。


 親に気づかれぬよう広場に入る三好兄弟。四人とも機敏な動きでステージ上の檻に辿り着くと、神太郎が馬鹿力で強引に鍵を破壊。閉じ込められていた魔獣の子供と対面した。しかし、人間が触れられる間近まで寄っても、子供はただ眠るように伏せているだけ。一応、その目には生気はあったが、衰弱ぶりがかなり酷かった。早急に手当てせねば。


「冬那、お前、魔獣の治療まで出来るのか?」


「魔獣の研究はしていたけど、治療は初めて。まぁ、普通の生き物と変わらないと思う」


 兄の問いに妹は平然と答えた。ただ、慣れた手つきで子供の目を開かせて瞳孔を確かめているので、信用は出来そうだ。


「問題は、今持っている飲み薬で効果があるかどうか……。あくまで人間向けだから」


「ある分、全部飲ませたら?」


 千満がそう提案するも……、


「それでも足りないと思う。この子、体重は二トンぐらいありそうだし」


 あまり効果は望めないよう。


「え? じゃあどうするの?」


「注射する」


 飲むより直接打ち込んだ方が効果は望める。そして、小さな医師は持っていた鞄から医療器具と薬を取り出した。出先用の簡易的なものしか持っていないが、今はこれで何とかするしかない。


 そんな折、予想外の人物が現れた。


「おい、何を勝手にやっている!?」


 そう叫ぶのは、軍人でもないただの一般人。未だにここから避難しないその危機感の薄さには神太郎も呆れてしまうが、彼はその理由がすぐに分かった。


「あ、見世物屋の主人か?」


 魔獣の子供をこの国に連れてきた、あの見世物屋の主人である。


「勝手に触るな。それは私の所有物だ。キダイ王国の法で護られている権利だ。上覧会にもカザルビン公爵に貸し出したに過ぎん!」


 自分の財産を護るべく抗議する彼は、今の状況が見えていないようだ。いや、見えていようとも自分は無関係と貫いているのか。神太郎は説得する。


「この有様だぞ。魔獣にこの子供を返さないと収まらない」


「そんなこと知るか。魔獣退治は王国の役目だろう。しかも、私の魔獣がリバウドではなくあの巨大な化け物だというのなら、その価値は更に跳ね上がる。誰にも渡してなるものか!」


 何たる強欲。前にルメシアが商人は金儲けのことしか考えていないと言っていたが、正にその言葉通りの人物であった。だから、直情的な千満が憤激する。


「ああん!? ふさげんじゃないわよ、こうなったのは全部アンタのせいじゃない!」


「な、何だと!?」


「アンタがこの子を誘拐したから、こうなったんでしょう。こっちはアンタの尻拭いをしてやってるのよ!」


「私は何も法に触れたことはしていない。全て合法だ!」


 千満の反論に対しても悪びれる素振りすら見せない見世物屋主人。どうやら本当に自分は悪くないと思っているようだ。正に、長兄仙熊の法治主義・商業重視政策が生んだ怪物である。その悪意のない悪を前に、千満の怒りは頂点に達した。


「又四郎、もうコイツ殺しちゃってよ!」


「そうだな。俺が暗殺者になったのも、こういう法を楯に悪事を働く奴を成敗したかったからなんだ」


 弟も賛同する。元々正義感の強い又四郎だ。この男に殺意を抱くのも当然だった。


 そんな物騒な発言を聞き、主人もやっと危機感を覚え、後退りをした。


「わ、私は何も悪くない。きちんと法に従っている。お前らこそ犯罪者だ! 強盗犯だ!」


 彼のその台詞もまた正しい。正しいが……法律は万能ではない。役人の端くれである神太郎が、それを踏まえて最後の忠告する。


「見世物屋、今回は子供のことは諦めて避難しろ。こんな状況でもここに踏み止まる商魂魂は認めるが、命あっての物種だ。法律は命まで護ってくれないぞ」


「その魔獣の子供は金のなる木だ。私の物だ!」


「引き際を誤ると全てがパーだぞ。……ほれ、見ろ」


 と、神太郎が真上を指し……、


「うん?」


 主人もそれに釣られて見上げると……、


 潰された。


 魔獣の足によって。


 今の怒鳴り合いで、空にいたラースファルガに気付かれたのだろう。急降下してきた巨体が、見世物屋主人を踏み潰して地響きを起こした。檻の中の子供に手を出そうとしている人間たちに憤怒の形相を向けてくる。だが、それに怯まない二人の男が立ち塞がった。


 全長三十メートルの巨体を前にしても、臆することなく構える神太郎と又四郎の兄弟。神太郎はこれまでと同じように平静であったが、又四郎の方はかなり興奮しているよう。仕方がないか、やっと自分の実力を発揮出来る相手と出会えたのだから。


「又四郎、魔獣は傷つけるなよ。親子で仲良く魔界に帰ってもらうんだからな」


「分かってるって。ちょっと脅かしてやるだけさ。まぁ、相手がドラゴンってのもS級暗殺者には相応しい相手だしな。それと、神兄ちゃんの手助けはいらないぜ」


「なら、お手並み拝見といこうか」


「おう!」


 そして開戦!


 先手は又四郎!


 浮遊魔術《フローム》で急上昇すると、一気にラースファルガの顔面まで迫った。そこに……、


「うおおおおおお!」


 まずは挨拶代わりの一発。又四郎の拳がその大きな鼻を打つと、魔獣は堪らず悲鳴を上げてしまった。


 効果あり。流石、S級暗殺者か。


 人間相手に初めて感じた痛手に苛立つラースファルガ。すぐさま反撃の頭突きで宙の又四郎を彼方へ弾き飛ばすと、それを追っていってしまった。お陰で檻から引き離すことに成功。いい展開だと神太郎は喜ぶ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 正直言って最近読んだなろう系小説の中で一番面白い。 ありがとう。 今後も楽しみにしています。
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