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番外編1-4 家族愛④

 その登場に市民たちは一斉に悲鳴を上げた。動揺、混乱、避難、大騒乱に陥る。


「何だ、あれは!?」


 上覧席のカザルビンもその到来に思わず叫んでしまった。


「魔獣のようですな」


「そんなことは分かっている! 魔術士隊はどうした!? 直ちに討伐させろ!」


 仙熊の真面目な返答に、彼はおちょくられたと思ったのか更に憤激。だが、仙熊は構わずもう一つ付け加える。


「あの魔獣と檻の魔獣は似ている。どうやら、親が子を取り戻しに来たようだ」


「何だと!?」


「やれやれ、とんでもないものを招き寄せてしまいましたな、カザルビン公爵」


 そう失策を指摘しながら冷たい笑みを浮かばせると、政敵もまた苦悶の表情を浮かばせざるを得なかった。


 その頃、神太郎ら五人は市民たちの騒乱の中にいた。周囲が押し合って逃げ惑う中、離れ離れにならないよう必死にくっついている。


「こりゃ、もう建国祭どころじゃないな。さて、どうしたものか」


 こんな状況でも然程慌てていない神太郎は、流石ハーレムを目指す大器の持ち主と言えた。


「とにかく、まずは逃げるか」


 下した判断も妥当。彼はネクスタリアと冬那を肩車したまま、退避を始め……、


「ちょっと待って、神太郎」


 ようとしたら、ルメシアに止められた。


「あの魔獣を止められるのは神太郎だけよ。皆を助けてあげて」


「いや、何で!? 俺は北門の衛士で、ここは北門じゃない。管轄外だ」


「あれが本当にラースファルガなら、王国軍だけじゃ太刀打ち出来ない。この国は滅びる。貴方の力が必要なの」


 更にユリーシャにまで請われた。しかし、恋人二人の頼みでも彼は気が進まなかった。


「いいか、この国には法律があり、役人である俺はそれに従わなきゃならない。それはお前たちも分かっているだろう」


「そうだけど……」


 と、そこに本来その役目を担う者たちが駆けつけた。王国軍の魔術士たちである。彼らは周囲に避難を命じつつ戦闘態勢に入った。やはり、神太郎に出番はないのだ。


「ほら来た。俺たちも逃げるぞ」


 その正論を前に、恋人たちも大人しく従う他なかった。


 尤も、彼女らの言葉もまた正論であったのだが……。


 そして、魔術士たちによる討伐が開始。ラースファルガに対し、光弾魔術《レイフィッシュ》が撃ち込まれ始めた。


 東門の衛士たちも使っていた拳大こぶしだいほどの光の弾を発射する攻撃魔術であるが、流石、魔術のプロ。衛士とは比べ物にならない速度で連射してみせている。まるで機関砲だ。それを五十人の魔術士が一斉にお見舞いさせたのだ。


 ……しかし、当たらず。彼らをもってしても、上空二百メートルを飛び回る目標に当てるのは困難だった。いや、巨体にもかかわらず自由に空を舞うラースファルガの方が上手うわてと言うべきか。


 尤も、当たったところで効果などないのだが。実際、一発命中したが、ラースファルガに全く変化はない。それどころか、お返しをされた。


 魔獣の開かれた口から放たれたのは死の閃光。眩い光が魔術士たちに照射されると、彼らは大地ごと消え去った。その光景を前に、市民たちは狂乱に至る。


 更に、それが乱射されると街中に火柱が上がり、爆発が起こり、悲鳴も上がる。


 キダイ王国は一瞬で地獄と化した。




「何をやっているんだ、王国軍は!」


 頼りの王国軍の体たらくぶりにカザルビンは激怒した。これでは勇者依存の解消など夢のまた夢……。寧ろ、より依存度を高めてしまうだろう。いや、それどころか魔獣を招き入れた責任を取らされてしまう。


 片や、その横では仙熊が内心ほくそ笑んでいた。彼にとってこれは好都合な展開である。但し、国王と王女を失うわけにはいかない。二人に退避を促す。


「陛下、サラティナ殿下、直ちに避難を」


 が……、


「不要だ! あんな獣、王国軍がすぐに討ち果たす!」


 カザルビンがそれに反対した。そして国王に直訴する。


「栄えある建国祭をこんなことで潰してはなりませぬ! 魔族を討ってこの国を建てた高祖に申し訳が立ちませぬぞ! どうか、全軍の動員命令を!」


 己の進退にも関わるためか、それは懇願に近かった。対して、仙熊も負けじと進言。


「陛下、王国軍は市民の避難に注力すべきでしょう。人が敵う相手ではありません。ここは被害を抑えることに専念すべきです。魔獣対策は私めにお任せ下さい」


 それは三好一族の威勢をより高めさせるものだった。反三好派が恐れる三好家独裁への一歩である。そして、それは国王自身も承知している。


「黙れ、宰相!」


 怒鳴るカザルビン。……が、


「このままでは国が滅びますぞ!」


 仙熊が国家滅亡を唱えると、彼も堪らず気後れしてしまった。その上、その言葉を示すかのように、爆風が上覧席を襲った。


 椅子が吹き飛び、カザルビンが倒れ、サラティナ王女も侍従に庇われながら伏せる。激しい嵐が貴賓の場を掻き乱した。ただ、そんな中でも仙熊と国王バルディアランだけは、微動だにせず仁王立ちしたままである。


「仙熊」


 そして、寡黙な王が遂に重い口を開いた。


 全てを宰相に委任してきた彼は、亡国を前にこう問う。


「お前は正しいか?」


 その言葉は責めか? 或いは乞いか? 人によって聞こえ方が違っていただろう。しかし、仙熊の心に乱れはない。家臣は敬礼しながらこう答える。


「それを決めるのは陛下でございます」


 彼の本心はこの国に来て一貫している。


 ここはオアシスだ。

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