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番外編1-1 家族愛①

こちらは仮最終話として書いたもので、時系列や状況が本筋と異なる点がございます。ご了承下さい。

 初夏、キダイ王国に一年で最も活気の溢れる時期が訪れる。それは国民全員がその三百年の歴史を祝う祭事。建国祭だ。


 街中至るところで市や催し物が開かれ、各大通りではパレードも行われている。国中に人が溢れ祝賀ムード一色となり、雲一つない晴天に恵まれればその喜びも一入ひとしおとなった。


 そして、神太郎もまた二人の恋人を連れ、その祭りに参加していた。


「凄い人出だな」


 人、人、人、人、人、人、人……。どこを見ても人ばかり。あらゆる方向から喧騒が聞こえてきて、真っ直ぐ歩くことも困難なほど。普段使っている通りは普段と全く違っていた。


 右を見れば珍物を売っている者がいたり、左を見れば曲芸をしている者がいたり。とにかく、あちらこちらで大盛り上がりだった。彼もこういう雰囲気は好きである。


「年に一回の大祭りだからね。国外からも多くの人が来てるし、この一週間はずっとこんな感じよ」


「貴族は勿論、王族も市民に混じって観覧にいらっしゃるくらいだからね」


 新人のために解説してくれるルメシアとユリーシャ。ただ、慣れている彼女らも祭りへの期待感は新人の頃と変わらない。いや、恋人が出来た分、いつもよりウキウキしていた。格好も普段の私服より気合を入れている。そんな二人だったから、既に今後の予定まで決めてあった。


「と、言うわけで、スケジュールは私たちに任せて」


「承知致しました、ルメシアお嬢様」


「それじゃ、そこの公園から行ってみましょう」


「お任せ致します、ユリーシャお嬢様」


 デートは女性側が望むようにするべし。それが神太郎のハーレム処方術である。


 そして彼の右腕にルメシアが、左腕にユリーシャが手を添えると、三人のお祭りデートが始まった。


 まず観覧したのは公園でやっていた大道芸。奇怪な格好をした芸人が様々な演芸をしている。ジャグリング、アクロバット、パントマイム……。前の世界でも見ることが出来た芸であったが、それに浮遊魔術が加わると一転華やかに。ジャグリングしながら空中に浮かび上がると神太郎たちは声を上げ、続けてそのまま宙で縦回転を始めると自然と拍手をしてしまう。更に、たちまち高速回転に移れば喝采かっさいは避けられなかった。僅か一メートル浮くという簡単な魔術を加えただけだったが、それすら出来ぬ神太郎にとっては実に愉快なものであった。


 次いで観劇したのは広場の野外劇場で催される演劇。内容は勇者が魔族を倒すという勧善懲悪物で、この世界では老若男女誰にでも受ける鉄板ストーリーらしい。しかも、今回は実際の勇者の設定を取り入れて、大魔導師の妻との二人旅というストーリー仕立てになっていた。舞台上の勇者が魔族を斬ると歓声が上がり、魔王を打ち倒すと拍手が湧き起こる。人々が抱えている魔族への鬱憤うっぷんを晴らしてくれるそれは、一種の精神安定剤なのかもしれない。


 その次に鑑賞したのは大通りで行われるパレード。仮装した踊り子たちが華やかに舞い、行進する楽隊が陽気な音楽を奏でる。そして目玉は何頭もの馬が引く巨大な山車。高さ十メートルを超えた華やかな楼閣が街中を進み、その天辺からは人が薔薇の花を振り撒いていた。沿道で観覧していたルメシアとユリーシャが手を伸ばしてそれを取ろうとしていたが、結局手に入れたのはそれが頭の上に乗った神太郎だった。


 という感じで、三人は建国祭を大満喫していくのであった。




 昼食時を迎えた頃、神太郎たちは王宮前の凱旋広場にいた。午後から始まるここでの催し物が目当てだったのだが、屋台街もあったのでついでにと腹を満たすことにする。三人は適当に食べ物を買い漁ると、ベンチに腰掛けてそれらを味わっていた。


「心なしか、普段より美味く感じるな」


 中央の神太郎が牛串をかじりながら感想を言うと……、


「こういうところで食べると、何か美味しいよね」


 右隣のルメシアがじゃがバターを食べながら答え……、


「雰囲気がそう感じさせてるのかもね」


 左隣のユリーシャがうなぎの蒲焼をついばみながら補足した。更にルメシアがもう一つ。


「この凱旋広場は、初代キダイ国王が魔族の軍勢を撃破したことを記念して作られたの。つまり、魔軍七将襲撃事件を解決させた神太郎は、このくらい偉業を成していたってわけ」


 王宮の目の前にあるここは王国のどの広場よりも広く、どの広場よりも整備されていた。閲兵式えっぺいしきなどの野外式典は大抵ここで行われ、今回の建国祭のメインイベントも開かれる予定だ。国家の象徴と言っていいだろう。


「それなら、俺の件もちゃんと報告していたら家ぐらい貰えたかな?」


「貰えたわよ」


「昇進なしで?」


「昇進なしで。……ってか、アンタって本当出世欲がないわね」


 ルメシアにそう呆れられていると、神太郎は見知っているカップルが歩いているのに気付いた。いや、正確に言えばカップルではないか……。


「おう、姉ちゃんにクレハ」


 彼の姉、千満ちありと、その腕に手を添えている義妹のクレハである。千満も弟に気づくと少し不機嫌な表情を晒したが、一応寄ってきてくれた。


「楽しんでるー? 二人とも」


「ええ、とっても。今までで一番楽しい建国祭です。お兄様が仕事で留守にしてくれて、本当に良かったわー」


 その神太郎の問いに、クレハは上機嫌に答えてくれた。大好きな義姉とのデートが叶ってご満悦のよう。対して、逆に千満は不満そうに彼を睨んでいる。尤も、神太郎もその理由は分かっていた。


「二人とも似合ってるねー、そのお揃いの帽子」


 この姉妹は、あの時彼が同行して買った帽子を被っていたのだ。その褒め言葉にクレハは「そうでしょう?」と大喜び。……が、千満は全く逆。弟の襟首えりくびを掴みその耳元で不満をささやく。


「アンタがそう仕向けたんでしょうが」


「いいじゃん、仲良くなりなよ」


「これ以上なったら困るのよ」


 尤も、今更そんなことを言っても仕方がない。彼女は不服ながらも手を離すと、一つ興味深いことを教えてくれる。


「ったくもう……。そうそう、あっちで又四郎が屋台をやっていたわよ。あのニートが祭りの日でも真面目に働いているなんて、本当驚きの変わりよう。ちょっと安心したわ」


「ほう、確かにそれは驚きだ。ちょっと覗いてみるか」


 平日でも寝て過ごしていた男が、今では祭日でも労働とは……。兄として褒めてやらねばならなかった。

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