12-3 三好一族の脅威③
「ほっほー。親父もやるねー」
屋外廊下を進む神太郎は、それは楽しそうに言った。片や、政治を司る仙熊にはそんな余裕などない。
「感心している場合じゃない。これで反三好派が勢いづく。親父も面倒なことをしてくれたものだ」
そして、会議室に入った二人を待っていたのは、四人の冷たい視線だった。
エイゼン王国から来た特使メイザーレ伯爵。
それとキダイ王国の三人の重臣。
外務局・外務局長、カザルビン公爵。
国防局・国防局長、マーベッツ侯爵。
治安局・治安局長、ハインバイル侯爵。
この三人は、反三好派の主導者たちである。見事に三好家に反感をもつ者だけが参加していた。恐らく、親三好派の貴族には情報を遮断したのだろう。仙熊は渋い顔を晒さざるを得なかった。
「いやはや、とんでもないことをしてくれましたな、貴方のお父上は」
席に着く仙熊に、カザルビンが言った。
「まさか、味方である人間を攻撃してしまうとは。しかも、エイゼンの王子を殺害するなど……。これは大罪ですぞ」
「ご子息として、どう責任を取られるおつもりか?」
続いてマーベッツ、ハインバイルと苦言が続く。対して、仙熊はただ黙って聞き流すだけ。余計な失言が足元を掬ってしまうと知っているからだ。
やがて、この会談の最後の参加者、国王バルディアランが入室すると、全員起立してそれを迎えた。神太郎も一番最後ながらも空気を読んで立ち上がる。
面子が揃い、遂に会談が始まる。初めに口を開いたのはメイザーレだ。
「一週間前、我がエイゼン王国のサナワ王子が、そちらの勇者によって命を絶たれました。その上、王子を護衛していた我が国の兵士五十名まで殺害しております。この件について、我が国は厳重に抗議致します。貴国の態度次第では戦争も辞さないと、我が王は申しております」
それは実に攻撃的な口調だった。それに仙熊が答える。
「王子の逝去に関しては、王国として哀悼の意を表します。ただ、未だその詳しい状況が分からない以上、こちらとしてやれることはありません」
「我々が嘘を吐いているとでも?」
「突然、このような状況になり我々も困惑しております。謝罪をするにしても、全貌が明らかになってからでないと適切ではないでしょう」
「つまり、貴国は謝罪する気はないのだな?」
憤怒の表情を見せるメイザーレ。更に、カザルビンが仙熊に進言する。
「宰相殿、私も殺害そのものは確認を得ていますので、ここは謝罪すべきではなかろうか。どういう理由であれ、我が国民が他国の王族を殺傷したことは看過出来ませぬゆえ」
外務局を牛耳る彼は、宰相より他国の情報を得ることに長けていた。また、国防局のマーベッツもそれに同意する。
「エイゼン王国と我が国は数十年に渡って軍事同盟を結び、共同で対魔族政策を進めて参りました。この度の件でそれが瓦解すれば、我が国にとってとてつもない損失となりましょう」
最後に、治安局のハインバイルも忠告。
「この件が国民たちに知れ渡れば、大きな騒ぎになります。暴動も起きかねない。我が国として直ちに謝罪し、責任の所在を追及、早急な事件の沈静化を図るべきです」
それらの進言に、仙熊は無言を貫き、バルディアランは考えるかのように髭を撫でた。神太郎すら彼らの進言は尤もだと思う。
だが、異様でもある。キダイの重臣たちの言葉は、自分たちの弱みを見せていることにもなる。他国の人間の前で口にするような台詞ではない。……まるで、彼ら三重臣もエイゼン側のようだった。
自国の弱みを露にしても、この件を利用して三好一族を排除する。それが貴族たちの企みか。
「陛下、ここは直ちに勇者殿を召喚し、罰を与えるべきです。でなければ、エイゼン王国も納得致しますまい」
カザルビンは国政を一任されている宰相を飛び越え、国王に直々進言した。勇者の召喚は、仙熊の宰相更迭にも繋がる。これで三好排除の意思は明らかになったか。
「宰相殿、黙っておられては話が進まない。答えられよ」
一方、宰相、三好仙熊は沈黙を保ったまま。彼は情勢が不利なときは防御に徹するタイプだった。極力ミスをなくし、手堅い選択を選ぶ性格。
だが、その弟、神太郎のタイプは違う。ハーレムを目論む大器の彼は、姑息な駆け引きなど好まない。
「うーん、どうも分からんなぁ」
突然発言をするのは末席の小僧。国王臨席の場で許しも得ない発言に、大人たちは皆不快になった。カザルビンが問う。
「君は?」
「三好神太郎、十七歳。独身。趣味はダルマ落とし作り。好きな食べ物は牛乳パン」
「勇者の次男坊か……。宰相殿、いくらご身内とはいえ、このような場に連れてこられたら困ります。陛下の御前ですぞ」
「勇者の息子なら、この件も無関係とは言えますまい」
弟を庇う兄。国王も何も言わなかったので、それは不問とされた。
だから仕方なく、エイゼン特使のメイザーレは再び怒気を込めて問う。
「分からないとはどういうことか? 我が王は、今回の件について大変お怒りになっておられる。勇者に対して、エイゼンの王立魔術師団の投入も検討されているのだ」
その言葉には、カザルビンら三重臣も動揺した。
「我がエイゼン王国は、世界でも有数の魔術国家。二千名もの上級魔術士を要する王立魔術師団は魔族を打ち倒すことも可能。人間側の最高戦力と言っても過言ではありません。勇者を打ち倒した後は、その矛先を貴国に向けられることもあり得ますぞ」
それは実に分かり易い脅迫だった。キダイ王国そのものにも害を及ぼすようなら、三重臣にとっても笑ってはいられなくなるが、一方で三好一族排除もやむなしとバルディアランを納得させ易くもなる。
「陛下、何卒、勇者召喚のご命令を!」
請うカザルビン。悩むバルディアラン。黙する仙熊……。
そして……、
「うーん、どうも分からんなぁ」
空気を読まない神太郎。
「一体、何がだ!? 小僧!」
同じことをまだ言う彼に、メイザーレは顔を赤くして叫んだ。
だから、神太郎は正直に答える。
「いやね、俺はてっきりエイゼン王国が詫びを入れに来たんだとばかりに思っててさ……」
「なにぃ?」




