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12-1 三好一族の脅威①

 王宮。それは国王の居城であり、国政を担う場所。つまり、国家の中心地である。王国の全てを決めるところだ。許された者しか入ることが叶わず、それは多くの貴族も例外ではなかった。正に聖域である。


 その聖域に、神太郎はいた。侍従に先導され、王宮の長い屋外廊下を進んでいる。とてつもない広さの敷地に、巨大な建物群。神太郎もここに来るのは初めてではなかったが、一度とて同じ場所を通ったことはなかった。


 やがて、案内されたのは誰もいない応接室。


「それでは、こちらでしばらくお待ち下さい」


 侍従がそう言い残し去っていくと、彼は一人で待たされることになった。あるのは値の張りそうな椅子とテーブル一式。あとは部屋隅にある花瓶とその置き台ぐらいか。時間を潰すにも、何も無さ過ぎる。仕方ないので、大窓から外を眺めた。


 その眼前に広がるのは、管理の行き届いた美しい庭。流石、王宮である。神太郎もそれに釣られつい庭に出てしまった。外部の者が勝手に散策するのは許されないと彼も分かっていたが、自分を待たせるのがいけないのだと悪びれる様子もなく庭を進んでいく。


 腰の後ろに手を回し、上機嫌に庭を散策する平民。しばらく歩いていると、屋根付きのガーデンテーブルが見えてくる。更に人も一人。それは……、


「冬那」


 彼の最愛の妹。一人でティータイムを楽しんでいたようで、その彼女も兄に気付いてくれた。


「あ、神兄。どうしたの?」


「ちょっと用事でな。お前は?」


「人を待っているの。まぁ、折角だからどうぞ」


 冬那は彼に着席を促すと、空いていたカップに茶を入れてくれた。ついでに、こんな知らせも。


「そうそう、ネクスタリア殿下が神兄に感謝していたよ」


 ネクスタリア王女のタカマ山へのお忍び旅行の件である。


「ああ、あの件か。そもそも、ネクスは何故規則を破ってまでタカマ山に行ったんだ?」


「私のせいかもね」


「なに?」


「実はね、その頃、彼女の母である王妃様が病に伏していたのよ。私が担当医として治療に当たっていたんだけど、ネクスタリア殿下は自分にも何か出来ないかって訊いてきてね。それで祈ってあげて下さいって答えたの」


「それでか……」


「ただ、タカマ山まで行くって言い出した時は、私も驚いたけどね。勿論反対したんだけど、意志は固かったし……。それで、せめて北門を通るように勧めたの。神兄を護衛に使うといいってね。神兄に理由を知らせなかったのは、規則破りの罰が及ばないようにするための彼女の気遣いだったのかもね」


「それで王妃は?」


「偶然なのか、祈りが通じたのか、ネクスタリア殿下が祈願した丁度その頃、様態が回復されてね。今はもう問題ないわ」


「そうか……」


 それを聞くと、神太郎に笑みが浮かんだ。彼女の行動は思いつきだったが、決してよこしまなものではなかった。それを知った彼は、キダイサンドのことは許してやろうと思えもした。


 で、それは置いといて、神太郎は妹に一つ訊きたいことがあった。


「そうだ、冬那。リーフェンってこの辺にいるのか?」


「あー、まだそのこと気にしてたの?」


 前に彼女が話していた耳の長いエルフ的な種族のことである。


「そりゃそうだろう。折角の異世界なんだぜ? で、どうすればリーフェンとお近づきになれる?」


「手っ取り早いのは、彼らに関わる仕事に就くことかな。相手はほとんどが外交官だから、つまり王国の高官とか」


「ハードル高いなぁ。あ、でも外国の人間なんだから門は通るよな? 門番やってればその時会えるじゃん」


「外国の使節とか高貴な人物は、北門なんて評判の悪いところは通らないよ。遠回りしてでも他に行く」


「ルメシアが嘆くなぁ」


 すると、そこに侍女を連れた来客が現れる。冬那が本来待っていた人物、ネクスタリアだ。彼女も神太郎という意外な人物との再会に、つい笑みをこぼしてしまう。


「あれ? 神太郎、来ていたんだ」


「おう、待ち人はネクスか。二人はすっかり友達か?」


「この王宮で同じ年頃の女の子なんて、冬那ぐらいしかいないからね。時々、こうやってお茶をするのよ」


 その言葉を示すかのように、王女を立って迎えるべき立場の冬那は座ったままだった。つまり、それが許されるほどの仲だということ。因みに、神太郎はそんな許しを得ていないのに座ったままだった。


「もしかして、私に会いに来てくれたの?」


「いや、別件」


 だから、嬉々と問う王女にも忖度そんたくせずに答えた。彼女も一瞬不満な顔を見せるも、彼の性格は知っているので気に留めずに着席する。


「……まぁ、いいわ。そうそう、神太郎に話があったの。貴方、近衛兵団に入らない?」


「あれに?」


「貴方にはそれだけの実力がある。私専属の近衛騎士になって欲しいの」


「ノーセンキュー」


 神太郎、即拒否。即答過ぎて、ネクスタリアも今度は気に留めてしまった。


「え? 近衛兵団よ? 誰もが羨む王国最高のエリート軍団よ? 何で?」


「仕事大変そうじゃん。しかも規則が厳しそうだし、堅苦しそうだしさー。以前観た式典でも一糸乱れず儀礼をこなしていたけど、あんなの無理だわ。どこにでもいる雑兵の方が気が楽」


「で、でも、あんなに強いのに。勿体ないわよ、門番なんて。貴方はもっと上にいける」


「まぁ、門番の中の上級衛士ぐらいまでなら上がってもいいと思っているけど」


 その向上心のなさに、ネクスタリアは隣の友人に助けを請う視線を送ってしまう。冬那も一応助け舟を出すが……。


「近衛兵になれば給料も上がるみたいだよ? 勿論、上級衛士以上にね」


「金を貰ってもストレス抱えたら意味がないだろう。俺は仕事をするために生きているんじゃないぜ」


「だろうね」


 兄妹なので駄目なことは分かっていた。


 すると、そこにまたも来客がやってくる。


「神太郎様!」


 いや、あの案内してくれた侍従だ。神太郎が応接室からいなくなっていたので、慌てて捜しに来たのだろう。彼はまず王女に深々と礼を示すと、次いで神太郎をたしなめる。


「神太郎様、突然いなくなられたら困ります。閣下がお待ちですよ」


「呼びつけたのはそっちなのに人を待たせるのが悪い」


 ということで、神太郎も本来の用を済ませにいかなければ。


「それじゃ、二人ともまたな。ネクス、王妃が治って良かったな。また何か困ったことがあったら言いに来い。保障は出来ないが、少なくとも一回は叶えてやる」


 そう言い残すと、彼は悠々と去っていくのだった。本当に自由な男である。冬那はそれが少し心配になってしまったが、ネクスタリアの方は違った。その瞳は見惚れていたのだ。


「神太郎って想い人っているのかな?」


「それっぽい人はいたけど、そもそも神兄はハーレムを作りたいみたいだよ」


「ハーレム……」


 その単語が王女を沈思黙考させた。


 そして、こう問わせる。


「ねぇ、冬那」


「うん?」


「そのハーレムって、王女でも入れるのかな?」


「………………え?」

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