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8-2 S級暗殺者、最初の依頼②

 それでも、こんなオタクな話が出来る相手は同じ別世界出身の神太郎しかいない。彼は少し考えると、新しい話題を見出す。


「それじゃ、もう少し興味が湧く話を……。神兄ちゃんは、この世界の人間と普通に話せることに疑問を感じない? 都合が良過ぎるって」


「お、いいね。そういうのを待っていたんだよ」


「俺たちは普通に日本語を発しているし、向こうも日本語で返してくる。俺は不思議に思ったよ。最初は奇跡的に似た言語だったのかもと思ったけど、『サンキュー』とかの英語まで通じちゃうから違和感があったんだ。……それで、一つの仮説を立てたんだ。もしかしたら、勝手に翻訳されてるんじゃないかって」


「翻訳?」


「俺たちが発した言葉が、向こうの人間の耳に入る時にはこっちの言語に変換されているってこと。逆も然り。だから、日本語も英語もまとめてこっちの言語に変わっているから意味が通じているんだよ」


「成る程な。けど、どうやって?」


「……分からない。何か不思議な力で。神様の仕業とか、魔術の類とか……」


「根拠なしか。でも、俺は結構()に落ちたぞ。以前、ルメシアにサツマイモが食べたいって言ったら普通に通じたんで、それじゃその語源である薩摩さつまのことを知っているのかと訊いてみたら何のことか分からないと言うんだ。ルメシアたちからすれば、俺たちは普通に現地語を喋っていたってわけか」


「というわけで、俺たちには自動翻訳機みたいなものが付いているって仮説でした。どう? 興味湧いた?」


「そうだな……。まぁ、言葉が通じればどうでもいいけど」


「神兄ちゃんって設定ガバガバでも気にも留めないタイプだよね」


「何せ、俺は器がデカイからな。……そういえばサツマイモもそうだけど、俺たちの世界と共通の部分が多いよなー、この世界。例えば料理とかさ。欧州的な世界観だからメインは洋食なんだけど、和食や中華的な店もある。このトトリ飯店も普通に箸とか出してくるし。……カツ丼は無かったけど」


 そして、食べ終わった神太郎はその箸を丼の上に置いた。


「ごちそうさん。んじゃ、お会計」


「え? もう帰るの? もうちょっと話そうぜ」


 立ち上がる兄を慌てて止める弟。


「もういいよ、設定の話は。退屈だよ」


「そんなこと言わないで」


「お前、アニメの考察とか好きだったもんなー。けど、設定系の話はそれが必要になった場面に説明してくれればいいよ。じゃないと忘れちまう。不要不急の設定話はしましょう。……ってか、お前仕事しろよ」


「そうよ、全く」


 すると、看板娘のマリィが怒り顔で口を挟んできた。


「いいじゃんか。もうすぐ閉店で客もいないし」


「洗い物があるでしょう。ほらほら」


 ちょっとだけ抗う又四郎だったが、恋人兼雇い主には到底敵わず。渋々調理場へ戻る。


 ただ、彼女が与えるのは鞭ばかりではない。


「そうそう、又四郎に依頼があったわよ」


「依頼? こんな時間に出前か? 流石に断れよ」


「違う違う、暗殺の依頼」


「マジでぇ!?」


 又四郎、驚愕。耳を疑う朗報である。しかし、マリィは優しい笑みでこう続けてくれる。


「アンタも知っているでしょう? ウチと取引しているモネ婆さん。彼女が近頃厄介なのに絡まれていて困っているんだってさ。だったらって又四郎を推薦してみたら喜んでお願いしたいって言ってね……」


「マリィ!」


 又四郎、抱擁。彼は喜びのあまり恋人に抱きつくと、その身を持ち上げて回り始めた。


「マリィ、お前は最高の女だ!」


「ちょ、又四郎! お兄さんが見てるって!」


 グルグル、グルグル、メリーゴーランドの如く……。マリィもその喜びぶりを理解出来るからか大人しく回されているが、神太郎の前だと流石に少し恥ずかしいよう。


「明日、早速モネ婆さんのところに行ってあげてよ。お店の方は休みにしてあげるから」


 下ろしたマリィがそうと気を利かせてくれると、又四郎も「OK!」と承知した。


「そうだ、神兄ちゃんも一緒にどう? 俺の暗殺者としての初仕事ぶりを見せてやるよ」


「暗殺って見られたら不味いものだろう」


「いいから! 誰かに見てもらいたいんだよ!」


 やはり、どこか不安な暗殺者である。一緒に行っても面倒事に巻き込まれそうな気がした。その上、尻拭いをさせられるとも……。


「……ったく、仕方がないなー」


 それでも承諾してしまったのは兄としての慈愛からだろう。


 そして何より、彼も明日は暇だったのだ。

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