7-2 踊る乙女②
そして誕生、猫耳ルメシア。
神太郎もその格好に満足したのか、少し表情を和らげる。
「よし、ルメシア。この際、お前への不満をハッキリ言ってやろう。一つ目、何でノックもせずに入ってくるんだよ。相手に失礼だろう。常識だ、常識」
「う……」
「二つ目、相変わらずのその嫉妬心。嫉妬は女を美しくさせるが、嫉妬深い女は実に醜い。俺は嫌いだ」
「嫉妬!? 私は嫉妬なんて……! 自惚れないでよ!」
「三つ目、その嘘で本心を隠す性癖。いつもいつも嘘で誤魔化そうとするから、こっちが疲れるわ」
「う、嘘……?」
ルメシアは言葉に詰まった。二つ目も三つ目も自分は認めていない。認めていないが、神太郎の真剣な眼差しが彼女の自信を揺るがせてくる。それでも抗弁はする。
「一つ目はともかく、二つ目の嫉妬って根拠は何よ!?」
「例えば、今みたいに俺が他の女とイチャついていても、普通の上司なら怒りはしないだろう?」
「私はただ、国を護る衛士としての立ち振る舞いを……」
「今日は休日。完全なプライベートだぞ。ただの上司が干渉することか? 衛士は女と付き合うなって言うのか?」
ごく普通の正論を前に、ルメシアは言い訳を用意出来なかった。
「あと、お前の嘘で本心を隠す癖だが、その理由も分かってる。お前はプライドが高いんだろうな」
「プライド?」
「お前は俺のことが好きだが、プライド的に俺のハーレム要員になるのは許せないし、俺が他の女とイチャつくのも許せない。まぁ、大貴族の令嬢がハーレムの一員なんて、世間体が悪いもんな。それは俺も納得している。問題は、それでも俺のことを諦めないことだ」
ぬけぬけと凄いことを言っている神太郎だが、それをぬけぬけと言える人間ではないとハーレムなど無理なのだろう。
「お前は俺を自分だけのものにしたがっている。独占しようとしている。俺はそれは嫌なのにさ。でも、未だ諦めない。それはお前が俺を見下しているからだろう」
「見下してなんか……!」
「公爵令嬢の自分が望んでいるのだから、平民の俺はいずれ従うしかないだろうってな。大貴族故の傲慢ささ」
「ち、違う。そんなこと……。私は神太郎のハーレムなんて不純な考えを正したくって……」
「それが傲慢なんだよ。人の思想を思い通りに操ろうなんて、そうとしか言えないだろう?」
「……」
「お前は一夫一妻がいい。俺は一夫多妻がいい。結果、お互いの考え方は違ったってことで、縁がなかったバイバーイと別れればいい。なのに、お前は俺に見切りを付けられない」
「よ、よく言う! アンタだって、度々セクハラかまして私に見切りを付けられないくせに」
「あれは俺というキャラの冗談さー。でも、それが不快だと言うのならもうしないよ。ついでに北門も離れる」
「え?」
「考えてみれば、いつも一緒にいるから見切りが付けられないんだ。お前も俺と離れれば、俺のことを忘れていずれ新しい恋を見つけるさ」
「……本気で言ってるの?」
「俺のハーレムは来るもの拒まず、去る者追わずだ。そもそも、嫉妬する女はハーレムには向かないしな。お前はとてもいい女だが、縁がなかったと諦めるよ」
ルメシアは沈黙した。そして考えた。確かに、恥ずかしい本心を嘘で隠していたかもしれない。「私だけのものになって」……。それを堂々と口に出来なかったのは、上品であるよう育てられたからだろう。
また、彼女は料亭でのユリーシャの言葉を思い出していた。
「神太郎はルメシアのことを上司や貴族としてではなく、友人として接しているのかもね。平等な個人同士として」
平等な視線で接してくる神太郎に対して、上から目線で接していた自分。その事実は、彼女も受け入れるしかないと思った。
ルメシアの選択肢は二つしかない。羞恥心を殺してハーレムに加わるか、恋心を殺して神太郎を忘れるかの二つだけ。そして、神太郎はどちらでも構わないと言う。全ては彼女次第。
悩む。悩む。悩む。悩む……。ルメシアは思いっきり苦悩した。彼女の中で乙女心が悶え苦しんでいる。
しかし、決めなければならないのだ。
ルメシアは必死に考え……、
そして、こう答えた。
「保留にする」
「保留?」
「アンタを一夫一妻の相手にするのは諦めた。だから、アンタのハーレムに加わるか、綺麗さっぱり諦めるかは後でゆっくり決める。人生に関わることだし」
「そうか……。うん、それでいいと思う。それじゃ付き合うか?」
「うん?」
「恋人同士になろうかってこと」
「えっ!?」
「恋人として付き合った方が、加わるか諦めるか決め易いだろう? それとも、結婚前提でないと付き合えないタイプ?」
「いや……。ま、まぁ、そうだね。付き合ってみようか」
「よし、決まり」
こうして、二人は付き合うことになった。ルメシアは内心納得出来なかったが、神太郎が作ったあまりにも強引な流れに従うしかなかったのである。
いや、そもそもそれ以前に、彼女が神太郎を好きだということを前提に話が進んでいた。否定する隙すら与えられず。嘘で本心を隠す癖を知られていたから、彼はそうさせまいと強引に話を進めたのだろう。
「なーんか、上手く乗せられたみたい……」
全ては神太郎の掌の上だったのか。この展開に釈然としないルメシアであったが、彼と付き合うこと自体は秘めていた夢である。喜びはあった。
「それじゃ、早速デートといくか」
神太郎とルメシア、二人の新たな門出である。




