再怪
2020年8月9日の東京都心部、日は人々を照らし、ビル街は熱帯雨林の様に蒸し暑い。そんなビル街を歩く雑踏の中に、笹野島彰浩こと私の姿もある。
なぜそんな猛暑日に出歩いているのか...、いささか不思議に思う人もいるに違いない。それは約1週間前まで遡ることとなる。
1週間前...、私の旧友の一人山峰久雄が鶴操病院という病院に救急搬送された。なぜ、搬送されたかは知らない。というより、教えられていない。
しかし、私、笹野島という男は医者の端くれの一人である。そのようなものは気になってしまうのが医者の性という物だ。もちろん、あくまでそれはおまけだ。目的は、山峰のお見舞い、それが本当の目的だ。これについては嘘偽りはない...と、思ってもらいたい。
さて、ここで問題だお見舞いに行くのに何がいると思う?花か、それとも果物、そういうのが多いだろうが、断じて否である。必要なものは、そう、付添人だ。俺は、一般的にヤブ医者として言われることが多い。そのため、ありとあらゆる病院で出禁とは言わずともブラックリスト入りしている。まったく...おかしいだろ、助けてやらないといけない患者がいるのに医師免許だとかなんだとかいうのは無粋だろ。
※医師免許を持っていないで医者をすることは法律違反、つまり犯罪です。
と、いうことで今回付添人としてフリーター(笑)の青木江西君を呼んでいる。
「彰浩さん...こっちですよね?」
「あぁ、その先だ。そして、そこの突き当りを右だな。」
こんな炎天下、無口の方がマシに感じる。もし、これで暑い暑い言い出したらたまったもんじゃねぇ。俺もさらに暑く感じるからな...。とはいっても、暑いものは暑い。早くクーラーの効いた病院に入りてぇ...。医者が熱中症で倒れたは洒落にならねぇからな。
重い足取りを一歩、また一歩と進める。それは、枷を付けられた奴隷のような、吹雪が吹き荒ぶ雪山に逆らって登ろうとするような気持ちだ。もういっそ、熱中症で倒れた方が早いんじゃ...。いやいやいや、百歩譲って、倒れたところで受け入れ拒否されるのが関の山ってとこだろう。待ってろ、病院。待ってろ、クーラー!
「涼しぃ...、溶けそぅ...。」
病院の中に入っての第一声だった。それを横から見る男が一言、
「大の大人が、暑さ如きにそんなことを言って恥ずかしくないんですか。」
いい切り口の言葉の刃物...、なんて恐ろしい子。でも俺は...自身の欲望に忠実である人間だ。つまり返答する言葉はただ一つ。
「ない!」
「そんなこと断言しないでくださいよ、いろいろと困った人ですよ。あなたという人は...。」
困った人...間違っていないからこそこころに突き刺さる...。メ...メンタルががが...。
そんなコントをしている間にも青木君は手早く面会の手続きを済ませる。ここまで仕事が早いと雇いたいものだ...、そんな金ねぇけど。
山峰の病室の前だ、だが何かが変だ。彼の病室には彼以外誰もいないはず...、なのに、何か気配を感じる。人の気配だ...。
こういう場合、3つの結果に分かれる。1つ、医療関係の人がいる。しかし、誰もいないと言っていたからありえない。2つ、受付にアポを取らず入っていった。これが一番確率がでかい。というか俺もそうすればよかったな...。最後に3つ、刺客がやって来た。絶対ない、確定でありえない。まずそんな恨み買うやつじゃねぇし絶対ない。