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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

平均して二人称の話

作者: ライス中村



目が覚めた。朝には弱いほうなので、ちゃんと時間通りに起きられたのかは分からない。もしかすると、もう昼になっているのかもしれない。けれど、近くに時計もないし、まだカーテンも空いていないので部屋は暗いままだ。まだ何時ごろなのかの判断はつかない。実をいうと、起きなければいけないタイムリミットなんてものは今の私にはないけれど。


なんというか、世界がボウッとしている。

いや、私がボウッとしているだけか。







伊藤は頭をポリポリと掻きながらやっと、閉まっていた黒色のカーテンを開けた。

差し込む鋭い日差し。雲一つない快晴が外に広がっている。


そろそろ部屋にカビが生えるかもしれないな、と伊藤は思ったが、べつだん清潔に気をつけている人種ではないのは自覚しているので、カーテンと、それから窓、を開ける以外には特に何をしようとも思わなかった。


しばらくの夏休みの間、伊藤は友達と沢山会おうと思っていた。職場の友達や同級生ではなく、インターネットで知り合った友達である。実際、休みの初めの方で何人かとは既に顔を合わせていて、そうすることによって自分の世界がより豊かに、より新しくなったことは伊藤自身実感していたので、残りの期間をいっぱいに使って、出来る限り色々な人と対面しようと考えていた。


今日もまた一人、伊藤の家を訪れることになっている。







意識がだんだんと冴えてきたのは、部屋に日光が入ってきたからなのか、それともスクリーンの光が目に飛び込んできたからだろうか。そういえば、スマホやパソコンの画面の光の中に含まれるブルーライト?なるものが目を覚まさせる、と前に聞いたことがある気がする。


しかし、暇だ。私は基本的にジッとしているのは嫌いで、こうなるとどこかに遊びに行きたくもなる。お金も足もないので無理だとはいえ。








流石に部屋をある程度片付けた方がいいか、と伊藤は思った。伊藤は、来客に綺麗な部屋を見せようとする変な取りつくろいはしたくないし、する必要もないというスタンスを取っていた。だが、そうは言っても、部屋に足の踏み場も少ないような状況では、自分の生活にもかなりの支障が出てしまう、と考えたのだろう。床に転がっているものを、クローゼットに無造作に突っ込んだ。クローゼットに入れたものの整理は後で、との魂胆だ。


と、そんなことをしていると、スマートフォンに新着の通知が来ていた。


「どうも真矢です。今伊藤さんの家の近くまで来ました。」


まるでメリーさんみたいな文章だな、と、伊藤はちょっと面白く感じた。リアルで初めて会うことに緊張しているのだろう、と伊藤は推測した。


伊藤宛のメッセージとともに添付されていた写真には、伊藤が真矢に「ここを目印にするといい」とあらかじめ伝えていた、近所にある、いやに曲線的でカラフルな家の写真が写っていた。







結局、せっかく意識は冴えていたのに、ボウッとしたまましばらく過ごしてしまった。


そんな惚けた感覚を引き戻したのは、突然に鳴り響いたインターホンの音だった。


ああ、またか。


伊藤は、私のそばに置いてあった大きめのスプーンと刃の広い包丁を持って、それを後ろ手で隠しながら玄関に向かった。


実際に使用するものでありながら、デスクに飾るオブジェ代わりにもしているのが本当に気持ち悪い。


と、伊藤は誰かを引き連れて部屋に戻ってきた。私や他の子たちの時とはパターンを変えて、玄関では殺さないようにしたのか。伊藤と一緒に入ってきた人は、…髪の毛は長いが、顔はちゃんと見えない。服は、アルファベットが胸元にちょこっと書かれた白いTシャツにジーンズを履いていた。男か女か、どっちなのだろう?









「改めて、どうもこんにちは。会えて嬉しい。」

伊藤は言う。


「こんにちは。一応これもはじめまして、って感じですかね。いやあ、教えてくれた変な家から伊藤さんのお家まで、けっこう離れてましたね。街の外れの辺鄙な場所にあるっていうのは嘘じゃなかったんだ。てっきり大げさに言ってるもんだと思ってましたよ。」

真矢はハキハキした声で応える。



「さて、」


伊藤は今回ふと思いついた趣向を試してみる。


「何か部屋で気になることとかあるかい?」



「ええと…」


真矢は部屋を見渡す。


「…正直、ちょっと汚いですね。その割に、特に特徴的なものがどこかに置いてあるってわけでもなくて…ん?…あのパソコンの横に幾つもあるのは何ですか?」


「…よし。近づいて見てみるといい。」

伊藤は微笑んだ。



二人は、パソコンのデスクの方へ向かう。








伊藤の狙いが分かった。アイツは今回、不意打ちで犠牲者を襲うのを止めたのだ。



と、伊藤が口角を目一杯に上げてもう一人に笑みを見せたのが見えた。パクパクと口を動かすのも。


私にはもう視覚しか残っていないので声は聴こえないがそれでも容易に、こんなことを言っているのだろうという想像ができた。


「僕は、人を殺してその目玉を抉って机に並べて飾るのが大好きな人間なんだ。今まで何人やったかな。ほら、手前のは球形のまんまだけど、奥のは干し葡萄みたいに縮んでるだろう?初めての時からけっこう時間が経っちゃってさ。目玉は乾燥するとああなるんだよ。面白いだろ?さて、今から君には新たにここの目玉に加わってもらおうと思う。せいぜい喜ぶといいよ。」


私の目玉を抉りながら伊藤が口に出していたのも、だいたいこんなセリフだった。






伊藤は言いたいことを言い切ったあと、玄関に出る時に手に取ったものの、急な思いつきのために一度ポケットにしまいこんだ包丁を再び取り出した。


ここからやることは。


素早く真矢の背後に回り込み

相手が反応する暇を与えず

出来るだけ素早く、頸椎に刃を思い切り突き立てる、ただそれだけ。


彼はその通り動いた。が、包丁は人体を捉えなかった。


刺そうとして腕を思い切りぶん回した反動で身体のバランスが崩れ、伊藤は転んでしまう。


おっと。と、伊藤は恥ずかしくなる。まあこれなら、


「ゴンッ、ゴッ。ガッ、ガッ、ガ、グチャ。」













人の頭部を踵で潰す感覚を、真矢は久しぶりに味わった。


目の前にはピクピクとまだ動いている首以外の伊藤の身体と、飛び散った脳や頭蓋骨、その他諸々の肉片や血が見える。


言葉を交わし、まず間違いなく伊藤は自分と同類の人間だろうと確信してはいた。


だが、ここまであからさまに分かりやすく行動を起こしてくるとは。

やはり見込んだ通り、伊藤は正真正銘の馬鹿だった。


真矢に拠点とする場所はない。訪問した家から旅費や食費に使う金を奪い、各地を点々としながら生きている。


コンセントを拝借して、大事な生命線であるスマホを充電する。


次はどこを狙おうか。

誰かを攻撃しようとする人間は、自分が攻撃されようとしていることに気付きにくい。周りが見えなくなるからだ。真矢は今までいつもその隙をついて生きてきた。


よし、満タンになった。



最後に真矢はパソコンの脇に置いてある目玉に目をやる。


戯れに、それらを全て手の平で上から押すようにして潰して、真矢は伊藤の家を立ち去った。


何か丸い果物を潰したような感覚が、真矢の手の平に残った。








こうして、私は終わった。

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