さあ出発だ
喧嘩の発端は私の事を侮辱されたから、らしいけど何と言われたかは教えてもらえなかった。
気になるけど、悪口なんて知ったところで百害あって一利なしだ。知らなくていいか。
***
私たちは今、ゲートの前にいる。
2人ともキャリーバッグをひいて。
ゲートって聞いた時は、光の門みたいなキラキラした感じを想像してた。異世界に通じるゲートだよ?
いざ来てみたら、普通に改札だった。駅の改札。
異世界の神様たちがさ、地界の駅の改札が好きなんだって。
改札は5台あった。そんなに出入りするのだろうか…
「そういえば、普通にルークが付き添ってるのはどうして?お父さんやお母さんじゃダメなの?」
『俺にその質問するとはいい度胸だ』
ルークは笑っているがまた黒いオーラが見えた。
「ちょ…ちょっと聞いてみただけで深い意味はないよ!異世界楽しみだな〜」
私はベタに口笛をふいてごまかす。
『フッ…いつも阿呆だな、お前は。俺が付き添うのは俺もあっちに用事があるからだ。』
「そうなんだ。時間あったら異世界観光できる?」
『やることやったら連れてってやる』
「お前、その気配はルークか?」
改札をいざ通ろうとすると、駅員の格好をした男が近寄ってきた。
『だとしたらなんだ』
「生きていたのか!良かったな!」
男は嬉しそうに何度も頷いている。
『…お前、あの時の駅員か。あの時は世話になったな』
「お〜丸くなったなぁ。そっちの可愛い子は誰だ?…人間だよな?」
『新しい魔王だ』
「………本当にお前が付き添う許可を得ているのか?」
駅員は疑わしい目でルークを見ている。
(その反応なんですか?!)
『…俺が〝反省〟したのは知っているだろう。心配はいらない』
「そうか、そうだな。悪いな変な事言って」
気まずい間があいて、駅員が不自然な咳払いをしながら持ち場に戻った。
「ルーク、時間大丈夫?」
『真由』
急に真面目な声でルークは真由に向き合う。
「な、何よ、急に真面目な顔して。」
『向こうに行けば耳にはいるだろうから、先に俺の話を聞いてほしい。』
「う…うん」
改札は普通に改札だった。
通り抜けたら異世界?と想像してたけど違った。これから転移や他の手段で移動するんだって。転移とかテンションあがる!
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「ありえなくない?」
私は何度でも言う。ありえない、と。
「百歩譲って転移はいいよ。でも銀河鉄道を選ばないなんてありえない!!なんでただの特急を選ぶのさーー!」
異世界に移動する手段はバリエーションに富んでいた。神たちの遊び心なのだろう。
ルークは話があるから移動に少し時間をかけたいと言い、移動手段の候補をいくつかあげた。
その中に銀河鉄道があったのだ!乗りたくない人なんている?!
ーーここにいました。
『銀河は客がうるさいから却下だ。静かな特急にするぞ』
…信じられないよね。このセリフ。
『いつまでもしつこいぞ』
私は泣く泣く特急に乗り込んだ。せめて窓から銀河鉄道の出発だけでも見えないかな、と未練タラタラで。
本当に線路があるわけではないので、結局は神様の力でそれっぽく見せているのだろうけど、
はじめての異世界は悪魔と特急に乗って行くことになりました。