祟り神様は優しげお兄さんでした
「いらっしゃいませ〜採りたての呪いですよー」
「お!呪いのウロコか。久しぶりだなー
魔女たちには連絡したかい?」
男は私の呼び声に足を止め、商品を何個か手にとる。 初めての客は人の良さそうなお兄さんだ。
「……魔女に連絡?」
「知らない?呪いのウロコはとても貴重で、あちらの世界では魔女だけが扱えるものなんだ。あーでも今もそうかは分からないな」
「あちらの世界というと…」
「ああ。こちらの世界では異世界って呼ぶのかな?それに連絡しなくてもあちらから勝手に来るかもね」
男はハハハと笑いながら
これ3つもらってくよ〜と立ち去って行った。
『おい、ボサっとするな。追いかけろ』
耳元で低音の声が聞こえ、我にかえる。
ああ、そうだ。加護が必要って言ってた。
私は男が立ち去った方向に目を向けると、まだ男の後ろ姿が見えたので、小走りで追いかける。
男は他の店を冷やかしながらのゆっくりとした足取りだったのですぐに追いつくことができたが、
咄嗟に上着の裾を引っ張ってしまい、男は驚いた顔で振り向いた。
「ああ、さっきの子か。何かな?」
男は急に呼び止めた事に気を悪くする事なく、笑顔を見せる。
「あの…加護っ!加護をいただけますか!!」
「ふふ…次の魔王候補は可愛らしいね。君なら魔王になっても良いね」
男はそう言いながら私の頭をなでた。
「はいどうぞ。加護を与えたから確認して。…また会えるといいな」
男は私の頰をスルッと撫で、
流し目を残してまた悠々と歩き出した。
『おい、またボケっとするな。加護の確認を早くしろ』
私は気安いお兄さんの急な色気ダダ漏れにフリーズしていたが、 数回瞬きをして現実に戻る。
首にかけているカードにはいつのまにか印がされており、たたり神と記されていた。
ーえぇ?たたり…祟り神?
なんか怖い神様だったんだ〜あんな優しげだったのに
神と遭遇したけれど、一見普通のお兄さんだったからか実感が湧かない。
『ぼやぼやするな、早く戻れ』
「はいはい。わかってますよー」
私は口うるさい声に辟易しながら元の場所に足を向けた。
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そもそも呪いのウロコとは何かというと、事の発端は私こと天野真由の兄である幸太がマンション8階から転落したことから始まる。
兄は昔から運が悪いことで有名な男だった。
小さい不幸は日常であり、周囲からもついてない男として認識されていた。
それが疫病神と呼ばれるようになったのは、不幸が周りにも及ぶようになったから。
死人が出たり大事故が起こる事はないが、 友人や知人、それに関わるものがみな不幸に見舞われる。
たまたまだろ…と最初は笑っていた者も、 偶然が重なれば笑う者もいなくなり、いつからか兄の周りには誰も寄り付かなくなっていた。
不思議なことに私や両親には何故か悪い事は起こらず、家族に何かすれば兄の報復があると思われていたのか、何か言われたりされたりもなかった。
そんなある日、兄は突然部屋から出てこなくなった。
もちろん、家族以外からは避けられているのだから、閉じこもる気持ちは分かる。
だがどんな時も顔だけは出していたのにそれすらなくなり、会話は母とのメールだけとなった。
そのまま1年の月日が経とうとしていた頃。
始まりの転落事故が起きた。
それは私の日常が終わった日でもある。