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【プロローグ】

 古い記憶だ。気づいたときにはもうあったが、その記憶の根源は定かではない。

 ――脳内で鳴り響く巨大なマリンベルの音。除夜の鐘のような重低音が長い余韻を残して鳴り続けている。見知らぬ地の演説台には黒装束(くろしょうぞく)の男性が立っている。懸命に語り掛けようと演説する男性の姿は、大衆が心を打つには充分なものだったはずだ。


 でもそこに、大衆はいなかった。


 演説台から見下ろす広い荒野は、無人の更地(さらち)だった。誰も聞いていないというのに、黒装束の男性は大げさな身振り手振りで演説を常しえに続けている。まるで黒装束の男性には広大な荒野を埋め尽くす大衆が見え、その歓声が聴こえているかのようだった。明日の本番に備えてリハーサルをしているにしては、彼の佇まいは人と人が対話するときの自然な身体の動きだった。しかし、やっぱり彼の語り掛ける向こう側に大衆は、人っ子一人見当たらなかった。


 現実味を帯びた精巧なパントマイムを見ていると、彼の視線の先には本当に人がいるようだった。彼には見えているのだ、彼には聴こえているのだ、と確信した――地鳴り、土煙、歓声、突き上げた拳、聴こえる一番大きい音は――。


 鐘だ。


 からんからん。からんからん。

 黒装束の男性は、ドイツか何処かの哲学者らしい。その人が口にした演説の一部。

『世界は本当に存在しているのか。それとも、我々の脳が見せているに過ぎない架空の共通世界なのか』


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