アルゴナウティカ④
英雄顕現から約半年の月日が流れた頃、それは突然決められた。
「では、我が娘、スピカ=アルマキア・ベルゼンと稀代の大英雄、クドウ アキヒサ殿の婚姻をここに宣言する」
「謹んでお受けいたし――」
「お断りします」
クドウ様の言葉を遮り、私が拒絶の意思を示すとお父様もクドウ様も引きつった顔を浮かべた。
「こんな時期に私の婚姻など誰が喜びますか。そもそもの話、民が、人々が必死な思いをしているのに私だけ幸せになろうというのはおこがましいと思います」
なぜこんな話が出てきたのかは定かではありませんが、今ではないですし、彼でもないです。と、流石にこれを口にするわけにはいかず、私は仰々しく集められた城の重鎮たちをかき分け、部屋から出ようとする。
その際、ツキコが見えたので彼女の手を取り、一緒に外に出るために扉に手をかけた。
「……御剣、ですか?」
震える声でクドウ様が言った。
しかし私はきわめて冷静に首を横に振り、肩を竦める。
「なぜヤエの名前が出たのかはわかりませんが、私は王族としての責任は取りたいと思っています」
そう言って私は部屋を出るのですが、横目に映ったクドウ様の表情はどこか悔しそうなそれで、首を傾げて外に出るとツキコが呆れたような顔を浮かべていた。
「なにか?」
「ううん、スピカは、本当にわかり、やすい、よね」
「はい?」
ツキコの言葉の真意を確かめようとすると、彼女が物憂いな顔で今出てきた部屋の扉を見ていた。
「夜永ちゃん、大丈夫、かな?」
「何がです?」
「工藤は、わりと手段、選ばないから」
「ツキコ、いつも言っていますけれど、もう少しわかるようにですね」
しかし彼女は口を閉ざし、深くため息をついた。
そしてその際、ポツリと――。
「でもこうして、誰かに敵意を、向けられるくらいなら、いっそのこと……その方が、幸せ、かも」
「ツキコ?」
「ううん、私も、追いかけちゃおうかな。なんて、思ってない、よ」
難解なツキコの言葉に頭が痛くなってきた私は、手を上げて降参のポーズをし、彼女をお茶へと誘う。この頭の痛みは甘いもので紛らわせようと決めた。
しかし私は、もう少しツキコの言葉に耳を傾けるべきだったと後悔することになる。