マッチポンプ
つまらない世界になったものね。と昔を思い出そうとしても、うまく思い出せずに、自虐的な笑みを浮かべる。硝子の鏡に映る私の姿は、ひどく単調で無機質。それでいて、疲れ切った顔がまるで幽霊のように、青白く浮かび上がっている。
ジェンダーレスと言えば聞こえのいい。メイクもオシャレも失った世界は、確かに合理的で涙がでちゃう。だって、差別どころか外見の違いなんて存在していないんだもの。皆が疲れきり、ふらふらとただ生きる為に動いている機械に差別なんか必要ない。
華のない世界なんかつまらないのは創作物も同じのようで軒並み姿が消えた。だって面白くしようとすると規制されちゃうのだもの。誰も世に出したくなんかないよね。
もっとも隠れて読書会なんかも開かれているらしいのだけれど……。羨ましいわ。いつか私にも参加できる機会が来ないかしら。そしたらきっと楽しい。きっと、昔の色んな作品で溢れていた時よりも、きっとずっと楽しい。
バレたらどうしましょう。という背徳感の中で楽しむ、ささやかな娯楽ほど、ロマンのあるものはないわ。と思わず妄想の中で微笑み笑う。
こんな事でも幸せを感じられるのだから、私はまだ大丈夫。とため息。こんな世界にした活動家達は今どうしているのかしら。ゾーニングという名の文化破壊と、環境に押し付けられた服やメイクからの脱出を主張した大きなお世話。その先の今は娯楽といえばご飯を食べ、珈琲を啜る程度のディストピア。
その内、動物さんを殺すのはダメだ! 植物さん可愛そう! とかなんとか言って、味のない人工物ばかりの食事になってしまうのではないでしょうね。と、嫌な妄想をしつつ残り少ない冷えた珈琲を啜る。
ふと外を眺めると、昔テレビで取り上げられていた、よく見知った女性が、「表現の自由を!」と叫んでいた。