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41―2 博徒と天稟 その2

 今のところリーちゃんが単独最下位。その表情に危機感は見えないが、負けて悔しいという感情は彼女には無いのだろうか。あるいは、俺のお願いを律儀に聞いてわざと負けてくれているのだろうか。

 リーちゃんは淡々とカード交換を進める。カードを3枚交換し、場に伏せた。今回賭け金を最初に決めるのはリーちゃんだが……


「ではわたしはチップを3枚賭けます。お二人はどうします?」


 リーちゃんが小さい手でぺちん、とチップを並べた。落ち着いた口調の割になかなか大胆な賭け方だ。よほど手札が良かったのだろう。

 俺も一応ツーペアが揃っているが、無理に勝負することもない。


「俺は降りるよ」


「私も……降りようかな」


「ではカードオープン。ハートとクラブの3、ワンペアですがわたしの勝ちです」


 してやられた。リーちゃんが大きい勝負に出たのは完全にブラフだったのだ。見れば麻季ちゃんも10のワンペアだったので、降りなければ勝てていたのに。

 しかし、何でわざわざリーちゃんは仕掛けてきたんだろう。だって……


「わたしが現在最下位なのに大きな賭けに出ることはないと思いましたか?」


「お、おう……その通りだよ」


「だからこそ勝負するんですよ、敢えてね」


「突然玄人ぶってきたな」


「ここから連勝しますよ。そんな予感がビンビンきています」


「負けフラグでは……?」


 しかし、この一戦から明らかに流れが変わった。







「わ、私も勝負しちゃおうかな……」


 今度は麻季ちゃんが3枚賭け。ブラフの可能性もあるが、もし強い手札なら怖いしとりあえず俺は降りるか。別に麻季ちゃんには負けてもいいんだが、自分が最下位に落っこちるのはちょっと悔しいしな。


「わたしは受けて立ちます」


「えっ……」


 途端に麻季ちゃんの顔が青ざめる。これはもしかして……

 結果は麻季ちゃんがワンペア、リーちゃんがツーペアでリーちゃんの勝ち。

 しかし何故リーちゃんは相手がブラフを仕掛けてきているとわかったんだろう。


「マキマキさんはこれまで3枚賭けはあんまりしてなかったですからね。強い手札でも仕掛けてこなかった。でもさっきのわたしのハメ技を見て、『自分でもできるかも』って思ってしまった。違いますか?」


 図星だったのだろう。麻季ちゃんは俯いたまま返事をしない。

 なんだか空気が不穏になってきた。まあ、リーちゃんのツキはビギナーズラックかもしれないし、もう少し様子を見よう。


 次は俺が最初に賭け金を決める。でもワンペアしか揃ってないし、賭け金は上げずにそのままいこうかな。


「じ、じゃあ私は2枚賭けで……」


「そうですか。わたしは降ります」


 リーちゃんは静かに手札を机の上に重ねた。あまり手札が良くなかったのだろう。

 俺はどうすっかな……またブラフかもしれんし勝負するか。

 カードオープン。


「ストレート、私の勝ちです……」


「えっ、マジ!?」


 ちなみにリーちゃんはスリーカードだった。そこそこ強い役なのに降りるなんて……いわゆる勝負師の勘ってやつだろうか。


「勘とかではないです。マキマキさんは負けが続いてますから、これ以上落とせないと思ったのでしょう。ここは慎重にならざるを得ない」


「でも、負け続けなら3枚賭けにして大きく取り返したいものなんじゃ……」


「ストレートとはいえ、わたしやナガさんがフルハウスやフラッシュを揃えていれば負けますからね。そんな勝負に出れるほどこの人の心臓は強くないですよ」


 リーちゃんの容赦ない講評が並べられる。

 しかし彼女がこれほど人の心理を読むのが上手いとは。


 いや、考えてみれば不思議なことではないか。リーちゃんは珍妙な言動を連発する割に学部にも普通に友達がいたり、色んな人に気に入られたりしている。

 あれは天性の魅力というより、緻密な計算に基づいたものなのかもしれない。たまに椿を煽ったりもするが、危害を加えられるレベルに至っていないところを見ると、ああ見えて慎重にバランスを保っているのだろう。


 その「人の顔色を読む」という特技はギャンブルにおいては非常に有用で、凡人である俺や麻季ちゃんではおそらくリーちゃんには敵いそうもない。

 嫌な予感がしてきた。この流れのままいくと……


「うぅ……ポーカー初心者にも負けるなんて……私はゴミ……」


 やっぱりこうなるよな……ああ面倒くせえ。

 リーちゃんに耳打ちして、なんとか手加減してもらわないと。


「リーちゃん、そろそろ負けてくれないか? な?」


「何故ですか?」


「何故って……見りゃわかるだろ。負け続けると人間は落ち込むもんなんだよ、特に麻季ちゃんみたいな子は」


「勝てばいいのでは?」


「血も涙も無い正論」


「ふむ。しょうがないですね、ナガさんの頼みとあらば」


「わかってくれたか……頼むよ」


 泣きじゃくる麻季ちゃんを宥め、なんとかもう一戦続けてもらう。

 ここで機嫌を直してもらわないとあとで椿に何と言われるかわからない。








「はいフルハウスです。わたしの勝ちですね」


「うぅ……カードの引きもダメ……きっと私がダメ人間だからだ……」


 余計卑屈にさせてしまった…というかリーちゃん、マジで容赦ないな。意図的に麻季ちゃんを追い込んでないか?


「ちょっ、リーちゃん! 空気読んでくれ……!」


「適当にカード変えたら揃っちゃいまして」


「わざとやってない? 今度こそ頼むよ本当……」


「ええ。折角ですし、もうちょっとボコしときますか」


「人の心が無いのか君は」


「うぅ……いっそ死にたい……」


 麻季ちゃんはボタボタと涙を流し、最早手に持っているカードがふやけてきている。

 それにしてもすごい涙だ。脱水症状とか起こさないのだろうか。

 しかしトランプで負けたくらいでこんなに泣くか?

 些か大げさな反応にも見えるが、か弱い女の子を泣かせたままなのも気分がよくない。


「わざと負けるのが癪なのはわかるけど、頼むよリーちゃん。これ以上麻季ちゃんがヘコむと後が色々大変なんだよ」


「まだヘコんだうちに入らないでしょう。血ヘドも吐いてないのに」


「カードバトルで血ヘドは吐かないんだよ、闇のゲームじゃあるまいし……どうした?麻季ちゃんに恨みでもあるのか?」


「いえ、化けの皮が剥がれるまで殴打する方が良いかと思いまして」


「どういうことだ?」


「だってあの人、全然悲しんでなんかないですし」


「えっ?」


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