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41―1 博徒と天稟 その1

「あっ……武永先輩」


 ああ、見つかってしまった。遠くに麻季ちゃんの姿を見かけたので、素知らぬふりをして通り過ぎようと思っていたのだが。


「今日暇ですか……暇ですよね……?」


「いや、ちょっと今日は人に会う用事があってだな」


 嘘だった。今日はこのまま真っ直ぐに家に帰り、ぼんやり晩酌でもしようと思っていたのだ。

 麻季ちゃんと初めて会って以来、時々ギャンブルの相手をするのだが、わざと負けるというのも結構神経を使うので疲れる。

 もちろんサクラだとバレないように勝つ時もあるが、大勝すると麻季ちゃんが落ち込むので、僅差で勝つように調整したりと大変なのだ。

 改めて考えると、子どもとゲームして遊ぶような感じだな……本当に。


「ふーん、誰と会うんですか……?」


 なぜか麻季ちゃんは食い下がってくる。もしかして嘘だと見抜かれてる?子どもほど勘が鋭いとも言うしな。

 麻季ちゃんを無視して帰るのも一つの選択肢だが、彼女をあまりぞんざいに扱うと椿がうるさいからなあ。また難癖つけられても困るし。

 さて、どう誤魔化すか……


「えーっと、友達の後輩と会う約束をしててだな。約束って言っても、確約してたわけでもないんだがその……」


「妙に遠い関係の人ですね……そんな人実在するんですか?」


 クッ、我ながら嘘が下手すぎる。咄嗟に思い付いた言葉を並べただけなんだが、「友達の後輩」に当てはまる人物なんて……

 いるか。いるな、一人だけ。







「なるほど事情はわかりました。つまりマキマキさんを倒せばいいということですね」


「何もわかってねえ……うまいこと負けてくれないか?」


「八百長ですか。わたしの得意分野ですね」


「妙に自信満々で逆に不安になるんだが」


「任せてください。悔しがる顔の演技ならなかなかのものですよ」


「マジで? ちょっと試しにやってみてくれ」


「ふんっ」


 眉が0.5mm動いただけで、リーちゃんはほぼいつもの無表情だった。すごく不安だ。


 麻季ちゃんから少し離れてリーちゃんに事情を説明してみたが、何とも心許ない。リーちゃんが容赦なく麻季ちゃんを泣かす未来がありありと想像できる。

 とは言え、急な呼び出しに応えてくれただけでも感謝しないとな。まったく健気な後輩だ。


「本当にいたんですね、『友達の後輩』」


 麻季ちゃんはクスクスと笑いながらリーちゃんを品定めしている。麻季ちゃんも小柄な方だが、リーちゃんの方がもう一段小さいためか、人見知りも発動していないようだ。

 麻季ちゃんと過ごす中でその性格がわかってきたのだが、彼女は自分が優勢の時はとにかく調子に乗る、小市民的な性質がある。

 大人しそうな見た目の割に根がちょっと歪んでいるというか、やはり椿の友達だなと思い知らされたものだ。


 なるべく麻季ちゃんと関わりたくない気持ちはあるが、一方で彼女を真人間にしてやらねばならないような気もする。

 将来俺が教師になれば癖のある生徒を受け持つこともあるだろうし、こういうのも勉強になるかもしれんしな。

 椿やモアちゃんほど重症ではない分、まだ救いがいもありそうだし。


「で、今日はどうやって遊びますか……?」


「そうだな、三人で遊べるようなギャンブルがいいか。またトランプを使うとして……リーちゃんはどれならルールわかるんだ?」


「トランプ? 合衆国大統領ですか?」


「いやそこから?」


「冗談です。手品とかで使うやつでしょう」


「間違ってはないけどなんか違う……しかしルールがわからないんじゃな」


 待てよ。むしろリーちゃんが初心者の方が都合いいんじゃないか? 初めての人間に教える、という形ならわざと負けたりしなくても自然に麻季ちゃんが勝てるだろうし。


「ルールは教えるから、ポーカーやってみるか」


「ぽーかー?」


「マジで知らないんだな……こう、手札のなかでトランプの数字とか絵柄を揃えるゲームだよ」


「でも、初めての人にポーカーは難しいんじゃ……」


 麻季ちゃんの心配はもっともだ。フラッシュやツーペアといった「役」も知らない人間がいきなりポーカーで勝てるわけがない。だからこそ、やる意味があるのだが。


「ちなみにポーカーと株式投資だとどっちが難しいですか?」


「比べる相手が強すぎない? そりゃポーカーの方が簡単だけど……」


「ならばやります。勝ちますよわたしは。国士無双をお見せしましょう」


「だから何なのその自信は」


 そもそも国士無双は麻雀なんだが……

 何にせよ本人が乗り気なら有り難いことだ。ここはリーちゃんの厚意に甘えよう。




 またしても空き教室でトランプを広げる。初めて麻季ちゃんと対戦した時と同じ教室だ。

 遊んでばかりだと親が泣くような気もするが、これは麻季ちゃんの社会更正ボランティアなので許してほしい。


 ひとまずリーちゃんにルールを教えていかないとな。


「最初はスマホで役を調べながらやるといい。最初はワンペア、ツーペアみたいな簡単な役から狙ってもいいかもな」


「なるほど、このロイヤル・ストレート・フラッシュというやつを狙えば良いのですね」


「人の話聞いてる?」


「なんか名前が格好よかったので思わず」


「気持ちはわかるけども」


 うーん……ルールを理解したうえでもリーちゃんは弱いのかもしれないな、これ。元々闘争心も無さそうだし、堅実に勝ちにいく性格でもないし。


「莉依ちゃん、面白い子だね。私、好きかも……」


 その弱そうな雰囲気がどうやら麻季ちゃんに気に入られたようだ。


 そう言えばリーちゃんは椿や村瀬みたいな好き嫌いの激しいタイプともうまくやってるし、天性の人たらしみたいな面があるのかもしれない。

 何なら俺も籠絡されてるしな。


「それじゃ、ゲーム、しましょうか……」





 やはりというか何というか、初心者だけあってしばらくリーちゃんの大敗が続いた。

 ルール自体は理解しているようで、ワンペアやツーペアを揃えることはあるが、ただそれだけである。ベットする掛け金も少なく、リーちゃんらしくない地味なスタイルだ。


「フラッシュです……ふふ、また私の勝ち……」


「麻季ちゃん絶好調だな。リーちゃんもいるし手加減してやれよ」


「手加減? 十分してますが……」


 麻季ちゃんはトランプを扇に見立てて口元を隠してみせた。さながら貴族にでもなった気分なのだろう。

 初心者相手に勝ってそんな嬉しいか?とも思ったが余計なことは言わないでおこう。


「面白いですね、これ」


 負けているのにリーちゃんもなぜか楽しそうだ。

 勝ち続けてる麻季ちゃんもご機嫌だし、今日は和やかな雰囲気で終われそうで助かる。




 しかし、ゲーム開始から一時間ほどで異変が起き始めた。

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