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C6 おだいじに

 大学を卒業して3年が経った。


 椿との和解?の後も色々と大変で、諸星から話を聞いたリーちゃんや、白蛇を通して一部始終を見ていた千佳が「自分もハーレムに入れろ」と迫ってきてずいぶん難儀したものだ。

 浅井先生はハーレム入りを願わなかったもののヤンデレ化してて、それはそれで大変だったし……


 村瀬・伊坂の二人を極力平等に扱おうとするだけでも大変なのに、これ以上数が増えると俺のキャパシティが限界を迎えるのはわかっているのでどうにか今日までお断りを続けている。


 ハーレムとはままならないものだ。よっぽどの気配り上手か、さもなきゃ鈍感野郎じゃないと務まらないだろう。

 かなり鈍感な方である俺ですら耐えかねているくらいなのだから。


 もちろん悪いことばかりではないので、村瀬と伊坂(たまに椿)との生活はおおむね幸福なものと言えるのだが。


 紆余曲折はあったものの、結局村瀬・伊坂と一緒に暮らす形で落ち着いた。

 村瀬は椿をも同棲に誘ったのだが、「何をされるかわからないので嫌だ」と断られている。

 ノンケだろうとお構い無しの村瀬相手だと警戒もするか。


 かなり猥褻な日々を過ごしているので、椿の懸念はまったく外れていないしな……




 結局村瀬は教職に就き、俺は教科書の出版会社で働くことになった。

 これはこれでお互いの分野の動向がわかるので便利なものだ。むしろ二人とも教師になるより教育業界に貢献できているのではないかと思う。

 ちなみに伊坂は教育とか全然関係なく、昼は家事をこなして夜はSMクラブで働くハードな日々を送っている。

 本人曰く「昼は召し使い、夜はマゾ奴隷……設定だけで(たかぶ)ってまいりませんか?」とのことだ。

 別に昂らないけど彼女が満足なら問題は無いと思う……無いよな? やべー奴と同棲してる村瀬や俺はクビになったりしないよな?




 そして、椿はといえば……


「先輩、そろそろ連中と別れて私と住みませんか?」


「しない。俺はお前が嫌いだ」


「嫌いな女を抱いて眠る気分はいかがですか?」


「最悪だよ。何度も言わせんな」


 椿の住むマンションは俺たちの住む家から程近い場所にある。

 近いというか、わざわざ近くまで引っ越してきやがったというか。

 本気で腹が立てばすぐに村瀬たちの待つ家に逃げ帰れるのだが、我慢できる範囲で椿の相手もしてやっている。


 伊坂にも忠告されたが、椿のガス抜きもしてやらないといつ暴発するかわからず危険だからだ。

 あまり嬉しい時間ではないが、平穏な生活のためだと思って歯を食い縛って耐えるしかない。

 村瀬も伊坂も俺が椿の家に泊まることは一切反対していないので、ただ俺の気分の問題なんだが。


「冗談はともかく、本当に先輩は構わないのですか? あんな関係世間には公表できないと思うのですが」


「まあ、な……ウチの父親はドン引きしてたし、伊坂のご両親には何も言ってないし。村瀬のご両親だけはあっさり受け入れてくれたが」


「でしょう? 職業柄、あまり不埒なことはされない方が良いでしょうし」


「痛いところを突くな」


「ですから、やはり私と入籍してですね……」


「うるさい」


 椿の身体に乗り唇を塞いでやると、奴は一瞬だけ抵抗したがすぐ目がトロンとして黙りこんだ。

 大学の頃とそこまで変わらない日々に思えるが、椿の扱いだけはうまくなったよな……俺。

 あんまり嬉しいことでもないんだけど。





 日が昇り始めたころ家に帰ると、村瀬と伊坂が朝のニュースを眺めていた。

 二人とも特に興味もなさそうに株価の値動きを聞き流していたが、俺の姿を見るなりそれぞれパッと顔を輝かせた。


 休日だというのに早起きして俺の帰りを待っていてくれたらしい。

 ベーコンと卵焼きの焼けたいい匂いがする。そこで初めて俺は自分の空腹に気がついた。


「おはよう武永くん。椿くんと楽しんできたかい?」


「できれば仔細をお伺いしたいのですが……寝取られはやはり一挙手一投足まで悉知させられるに限りますゆえ……」


 他の女の家から帰ってきた恋人を迎えるには鷹揚すぎる態度だが、もういい加減慣れてきた。これが俺にとっての日常で、普通の光景なのだ。


 平凡な俺の「普通」だって徐々にずらせばいつの間にかレールを外れているもの。

 もう俺の「普通」は世間の言う「普通」とはかけ離れているのかもしれないな。


「そういや喜多村さんから連絡が来ててさ、家具の移動をしたいから手伝ってくれって」


「おっ、それなら人手が要るね。大先輩にご挨拶といこうか」


「ずっと気になってたんだが、あのニート先輩の金はどっから出てきてんのかね。本人に訊いてもまともな答えが返ってこないからわかんねえんだよな」


「なんだキミ、知らなかったのかい? あの人はニートというより投資家とか株主とかそういう類いだよ」


「へえ……」


 ただの怠け者でないとは感づいていたが、思ってた以上にまともな生活を送っているようだ。


「そりゃ羨ましいな。働かずに収入があるなんて」


「真似しようとは思わないことだね。投資なんて、未来を読める人間でもなきゃ大抵は損して終わりなんだから」


「えっ、やっぱあの人未来予知とかできんのか? 冗談かと思ってたけど」


「どうだろ。ただ、大学の講義ではずっと寝てたのにテストもレポートも高評価だったらしいからね。そこまで頭が切れると将来の予測だってできるのかもね」


 村瀬は伊坂の運んできた紅茶をすすりつつ、何でもなさそうに言った。

 続けて伊坂が俺の席にコーヒーを置いてくれる。


「悪いな伊坂、いつも用意させて」


「いえいえ、御礼には及びません。代わりと言っては何ですが……」


「ああ、うん……」


 手渡されたコーヒーを口に含み、そのまま毒霧のごとく伊坂に向かって吐きかける。


 「またか」という呆れ顔で村瀬がこちらを一瞥したが、すぐに視線をニュースへと戻した。


「なんだこのクソまずいコーヒーは! 雑巾でも絞ったってのか!? ああ!?」


「申し訳ございません……申し訳ございません……」


 汚れた床を拭きながら伊坂は涙を流した。もちろん悲しんでいるわけではなく、嬉し泣きだろう。唇の端が喜ばしげにつり上がっている。


 しかしこれだけは慣れないんだよな、やっぱり罪悪感があるというか……


「なあ伊坂。コーヒーも勿体ないし、こういうのはやめにしないか?」


「えっ……」


 伊坂は作業の手を止め、顔を上げてみせた。演技など一切ない悲痛に満ちた顔だ。

 そんな表情を見せられると、もうこれ以上追及できない。


「……床が汚れるのは良くないから風呂場でやろうか」


「それは理にかなったご提案で」


 機嫌を直した伊坂は鼻歌まじりに床掃除を再開した。

 ハーレムのはずなのに立場の弱い俺っていったい……


「ところで武永くん、今日は下着を買いに行こうと思うのだが」


「おー、行ってらっしゃい」


「キミも来るんだよ」


「嫌だよ、男からすればああいう店は入るだけで恥ずかしいんだぞ」


「だからこそだよ! 恥ずかしがりながら自分で履くランジェリーを選ぶ武永くん、想像しただけでキュンと来ちゃうね」


「妄想だけしてろ。行かねえからな、俺は……」


 なんて言いながら昼頃には村瀬と伊坂に無理やり連れ出されるんだろうな。お決まりのパターンだ。


 コイツらの趣味はそれぞれ癖が強すぎて、困るを通り越してちょっと怖かったりもする。

 遊園地のジェットコースターと同じで、怖いなりの面白さも無いではないが……


 こんな風に振り回される日々も悪くない、なんて言ったらエスカレートしそうだから、絶対言ってやらないけど。



【作者あとがき】


 今回でCルート(村瀬ルート)は完結です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

 次回からはDルート、あるヒロインが立ち向かう因襲と陰謀のお話が始まりますので、そちらもご期待ください。


 今までの話を楽しんでくださった方、これからの話を楽しみにしてくださる方は、ブックマークや広告下にある評価★★★★★を押して応援いただけるととても励みになります!




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