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C5―7 SHE IS FINE その7

「んんっ……!」


 短い嬌声とともに椿が身体を震わせる。

 俺の心がどれだけ冷めていても、身体は習慣通り動くもので、どうやら椿を満足させるだけの働きはできてしまったようだ。

 まったく嬉しくはないし、ただ疲労感が溜まっただけではあるが。


「はぁ、はぁ……ここからが本番ですよ先輩……」


 椿が蕩けた目で俺を見つめる。その卑猥な目にはもはや俺以外映っていないようだ。


 だから気づかなかったのだろう。いつの間にか村瀬と伊坂が移動していることに。


「そうだね、夜はまだまだ始まったばかりだからね」


「私たちも目一杯ご奉仕させていただきましょう……」


 伊坂が椿の背中から手を回し、抱きすくめる形で胸に指を沿わせる。

 村瀬は村瀬で、しゃがこみこんで椿の足に頬を寄せた。


「ちょっ……何ですか貴女たち、邪魔しないで……」


「邪魔なんてしないさ。存分に武永くんと楽しめばいい、ボクらはただの賑やかしだからね」


「椿さんの初めてですから、私たちも応援してあげたいのです」


「ふざけないでくださいっ……私は先輩と二人きりで……」


 椿の抵抗は口だけで、身体はビクビクと震えてばかりいる。

 本心では抵抗したいのだろうが、もはや身体に力が入らない様子だ。


 ようやく村瀬と伊坂の狙いが俺にもわかった。

 最初から、椿が勝ったと思い込んで快楽を貪るタイミングを見計らっていたのだろう。


 演技の得意な二人が本領を発揮したわけだな。

 俺まで騙すのはさすがにやり過ぎな気もするけど、効果はあったようで何よりだ。


 さて、一度は萎えきっていた俺の気力も復活してきた。

 椿のお望み通り、ここからが本番といこうじゃないか。


「んっ……先輩、今は、その……」


「お前が始めたことだろうが。果ての果てまで付き合ってるやるよ」


「無理です、休憩、休憩させて……」


「せっかく良い波が来てるんだろ? ここでやめるのは勿体ないぞ」


「さあ頑張ろう椿くん。ジェットコースターは勢いよく落ちる瞬間が一番気持ちいいものだよ」


「ご覚悟なさいませ……」


「ちょっと、待っ……三人かがりって……あっ、あ、あああぁぁぁーーーーーっ!!」






 今さらになってゼミ室の明かりを点けると、すでに夜9時を越えていることがわかった。


 いま部屋にいるのは力なくうなだれる椿と、甲斐甲斐しく椿に服を着せる伊坂、汗だくでシャツ一枚だけ羽織った俺の三人。

 村瀬は全員の水分補給のために水を買いに行ってくれている。

 「全員」とは言ったが、明らかに椿が一番水分を使い果たし、しおしおになっていた。


 ビショ濡れになってしまった床は伊坂が丁寧に拭いてくれたので、証拠は残らないはずだ。

 それにしても、あれだけ派手に騒いで人が来なかったのはラッキーだった。

 まあ、「学内四大変人」のうち二人とその関係者が怪しいことをしている時点で誰も近づきたくなかっただけかもしれないが……


 激しく運動したにも関わらずストイックに作業を続ける伊坂を眺めていると、「開けてくれ」という村瀬の声が外から聞こえてきた。

 俺が動くより先に伊坂がドアの方へ走っていく。


「ふぅ……ペットボトルを4本も運ぶのはなかなか難儀なものだね」


 両手にボトルを抱えた村瀬が息を切らしつつ部屋に入ってくる。

 自販機まで遠かったろうに、すまないことをした。


「ありがとな村瀬、とりあえずコイツに飲ませてやれ」


「そうだね……ちょっとやりすぎたかな?」


「いい薬だろ、たぶん……」


 焦点の合わない目をして横たわる椿を抱き起こし、なんとか水を飲ませる。

 軽くむせながらも、潤いは椿の喉を通って身体に染みていったようだ。

 その証拠に、椿の目つきがだんだん正常に近づきつつある。


「はあ、はあ……何なんですか本当……」


「おう椿。さすがに頑丈だな」


「最悪の初体験でしたよ、まったく……でもまあ、これから先輩と二人きりですからね。うふふ」


 衰弱の抜けきらないまま椿はニヤついたが、それを見ていた村瀬と伊坂は不思議そうな表情を浮かべた。


 その反応を予想していなかったのか、また椿の目に狼狽の色が戻ってくる。


「や、約束は守ってもらいますよ。村瀬さん、さらちゃん……先輩と別れたんですよね。だったらもう貴女たちに先輩と睦まじくする権利は無いはずで……」


「あー、そうだったね。じゃあ武永くん、もう一回ボクと付き合ってくれるかい?」


「私もお願いいたします……」


「ん? そりゃもちろんいいけど……」


「はあぁーーーー!?」


 椿は叫び声を上げながら、手に持っていたペットボトルを床に叩きつけた。

 蓋の外れていたボトルは内容物を撒き散らした後、部屋の端まで滑っていく。


「おかしいでしょう! 嘘です詐欺です景表法違反です!」


「嘘を言ったつもりは無いんだけどね。武永くんと別れるとは言ったが、再度付き合わないとは言ってないから」


「そんな屁理屈、通るわけがないでしょう! ふざけないでください、やっぱり貴女がたはここで始末して……!」


 憤る椿に反論する代わりに、伊坂がスマホの画面を椿に見せた。

 ボソボソと音声が聞こえてくるので、おそらく動画を見せているのだろう。


 動画? いや……あれはもしかして録画、か?


『あら先輩、そんな寂しいことしないでください。ちゃんと私を見て……これから結ばれる相手を』


『うるせえ。死ね。もうどうでもいいんだよ、クソが……』


『ごめんなさい、折角ならもっとロマンチックな場所の方が良かったですよね。でも安心してください。これからはどんなところにでも行けますよ。天国にだって』


 よく耳を澄ますと、そのやり取りはつい数時間前に俺と椿が交わしたものだった。


 伊坂のやつ、椿にバレないようにずっと撮ってやがったのか?

 なんだかこうやって掘り返されるとこっちまで恥ずかしくなってくるんだが。


「な、なんで……撮って……」


「本当はこんなことしたくないんだけどね。もしボクらのうち誰かに危害が加えられれば、この動画を即時警察に届け出るようにさせてもらうよ。証拠まで提出されれば、さすがに接近禁止令が出て椿くんはもう武永くんに近づけなくなるだろう」


「椿さん、観念された方が御身のためかと……」


「う、うっ……」


 起き上がっていた椿が再びイスにしなだれかかって、嗚咽の声を漏らした。


 さて、追い詰められたコイツはどんな手を使ってくるだろうか……

 いきなり放火とかし始めなきゃいいが……



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