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⑫ー1 ヤンデレと本物 その1

 「エセ除霊式」の一件以来、浅井先生に変わった様子は見られなかった。バイト先ではメキメキ指導力を上げており、生徒からの評判も上々だ。あの事件が俺の夢か何かだったんじゃないかとすら思えてくる。

 念のため他のバイト講師にも尋ねてみたが、浅井先生が奇行に走っている姿を見た人はいないようだ。とは言え、浅井先生が変人であるという噂はみんな知っており、やはりアレは現実だったのだと思い知らされる。

 しかし浅井先生はどうしてああなってしまったんだろうか。優秀さから来るストレス? あるいは、能力のある人は世間から見てどこかズレてるとかそういう……


「先輩、何か考え事ですか?」


「別に。そこに売ってるコーヒー牛乳を買おうか迷ってただけだ。というかお前、ストーカーしたり話しかけてきたりキャラがブレてないか?」


「見守りも声かけも大事じゃないですか、基本ですよ」


「俺はお前のペットか」


「え? 伴侶ですよね?」


「お前の頭の中ではな」


 うちのキャンパスの売店は割と狭いので、必然椿との距離も近くなる。俺より15cmくらい背の低い椿の頭を見ていると、少し心臓がドキッとするが、もちろん恋愛的な意味ではない。言うなれば背中に包丁を突きつけられた時の恐怖感に近い。こんな小さな身体でも、状況次第で俺の生死を左右できるのだから。

 椿が俺の部屋に侵入した時以来、手荒なことはされていないが、所詮それもコイツの気まぐれでしかないだろう。


「ああ、いたいた。武永先生と本庄さん。貴方たちはいつも一緒にいるのね」


「ゲッ」


 俺が売店のドアを開いた瞬間、どこからともなく現れた浅井先生が声をかけてきた。椿が反射的に俺の背中に隠れる。どうやら以前の一件が相当トラウマになっているらしい。


「この前はビックリさせてごめんなさいね。急だったから驚いたでしょ」


「ああいや、驚いたのは驚いたけど……」


「本庄さんは変わらず元気にしてた? やつれて見えるけど、ちゃんとご飯食べてる?」


「……」


「コイツ、結構量は食べるよ。痩せぎすの幽霊みたいな見た目のなのにな」


 今のところ浅井先生に変わった様子はない。(椿は警戒して黙りこんではいるが。)いつもバイト先で見かけるのと同じ、真面目で献身的な態度だ。やっぱりあの時のエセ除霊は何かの間違いだったんじゃ……


「それでね、結局本庄さんに憑いてる悪霊は祓えなかったみたいだし、ああいうのはちゃんと霊験のある場所で行うべきだなって私反省したの」


 雲行きが怪しくなってきた。


「だからね、今度本庄さんには私の実家に一緒に来てほしいのよ」


「お断りします」


 椿は俺の後ろに隠れ、顔を半分出しながら浅井先生を睨んでいる。ようやく声を発したとか思えば、冷たい拒絶だし。警戒心を隠すつもりもないらしい。


「そう……あんまり知らない女と二人っていうのも不安よね。それなら武永先生にも一緒に来てもらいましょう」


 待って。俺の意思は?


「じゃあ行きます」


 だから俺の意思は?


「それじゃあ日曜日の13時に阪急六甲(はんきゅうろっこう)駅に集合で。山の方に行くから歩きやすい格好で来てね」


 一言も発さないうちに俺の日曜日の予定が埋まった。なんで俺の周りの人間はこんな奴らばっかりなんだ。反論する間もなく、浅井先生は去っていってしまった。時間をムダにしないタイプらしい。

 うーん……正直行きたくはないが、ボイコットしようものなら椿が地の果てまで追いかけてくるだろうしなあ。


「うふふ……邪魔者もいるけど、また先輩とお出かけ……あの女を山に埋めて二人で楽しむのもいいですね」


「俺は行くとは言ってないんだが……」


「じゃあ海行きます? 川? もちろん都心部でも構いませんが」


 どうやら椿の中で俺と出かけることは確定らしい。逃げ切る方法が思い付かないし、諦めるしかないか。

 それにしても、浅井先生は俺たちをどこに連れていくつもりなんだろうか。怪しい宗教施設とかだったらどうしよう。

 ……まあいざとなったら椿を囮にして逃げるか。

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