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二つの世界で

作者: たくたく

 電脳世界、そんな言葉が世に当たり前になったのは何時からだろう。


 少なくとも僕らが生まれてしばらくしたころには身近にあった。

 少しだけ頭に装置を付けて目を閉じるだけで、今、ここではない場所へ意識が飛んでいく。


 そこにあるのは別の世界。自分がいる場所に時に縛られず行動できるこの技術は至る所で使われている。


 学校もそう、煩わしい集団での授業も本当の物質の世界で集まるわけじゃない。ずっとこっちの世界だ。


 それに最近は役所の手続きもできるようになったらしい。


 父さんが高校入学のための書類を申請するために色々やろうとしたら電脳世界でできるようになっていて驚いたと言っていた。


 そんなこともあって高校にも入学したが当然授業は電脳で、だ。


 多分最初の一回以外生身で登校したことは無い。入学式とクラスの集まりだけやって後は電脳世界でやり

 ましょう、で終わりだ。


 僕自身もそれで構わないし反対する人間もいないだろう、どうせ校舎もあとは卒業ぐらいでしか行かないだろうし。


 もっとも、部活とかをやりたい人は現実で体を動かさなきゃいけないところもあってわざわざ行ってるんだろうけど。


 僕にしてみればそれもよくわからない、ただでさえ電脳で生活できるし一応電脳でのスポーツ大会も行われている。


 あれだけは単純な装置だけじゃダメで肉体と電脳での意識をリンクさせるために追加の装置が必要らしい。


 でもそれだけもことだ。元は自分の肉体でただ場所が少しばかり違うだけなのに面倒なことをする。


 でも悪いことだけじゃないのかもしれない。入学式でたまたま席が隣だった子と仲良くなることもできた。


 もとはと言えば僕も彼女も教室に早く着きすぎていたのが理由だったけど。


 電脳だとそうもいかない、時間と場所を設定をしておけばその場所には簡単に行ける。もしあの入学式がこっちの世界だったら彼女とは全然話すこともなくてお互い只のクラスメイトとしか思わなかったと思う。


 それに彼女は僕の好きなゲームを知っていた。


 電脳ならではのシステム、特徴を全力で取り込んだゲームでスパイ、軍人、民間人どんなロールでもできてどんな姿にもなれるというとんでもなく深い世界を構築したゲームだ。


 中学生のころにこのゲームを知って以来毎日欠かすログインしている。


 お互いの日頃の生活を聞いたときにゲームをしていると言ったら彼女も知っていたようでそれからたくさん話をした。


 そうして一月もするころにはお互いゲームの世界で出会うようになった。そして協力プレイ、敵対プレイとあらゆる物語をあらゆるロールを楽しんでいる。


 でも少しだけ不満なこともある。電脳では肉体とはリンクしていない。正確には意識が影響する範囲では肉体でもその効果は肉体にも反映される。しかし意識だけでどうにもならないこと、例えば食事とかは栄養がとれない。


 一応味だけは電脳でも味わえるがそこに物理的な満足が存在しないのだ。


 彼女と電脳世界でそういうお店も訪ねてみたが微妙な感じだった。


 とはいえそこから現実の世界でのデートを約束できたのだからいいかもしれない。いわゆる結果オーライというやつだ。


 それももうすぐだ、久しぶりにこちらの世界で出かける。


 ずっと電脳ばかりだったから一瞬で移り変わることのない景色というのも不思議な感じがする。


 足早に向かうのは最寄りの駅へ。


 彼女は2つほど隣の街で暮らしているらしく、今回はこっちに来てもらって食事を楽しむ手はずになっている。


 時刻は電車の到着時刻より10分ほど早い。こういうところが出会いにも繋がっているのだろう。


 そんなことを思ってすこし嬉しくなる。


 駅では時折プラットホームから上がってくる人も居てこれだけ電脳が発達しているのにこっちの世界を楽しんでいる人も居るんだと実感する。


 時計を見ればあと5分。掲示板にもまだ電車が付いていないことは明示されている。


 何とも焦れる時間だ。電脳ならこんなことは無いのに。こんな煩わしさを僕よりずっと上の人たちは持っていたのだろうか。正直耐えられない。


 あと3分。時計の針がやけに遅い。本当にずれているんじゃないか。でもそうじゃないのだろう、電車が来たというアナウンスもないのだから。


 それから劫にも思えるほどの長い時間を過ごして、漸く電車の振動音とホームからの人の流れを見ることが出来た。


 彼女もすぐ来るだろう。


 でも彼女はどんな顔をしていたんだっけ。

読んでいただき大変ありがとうございます。

感想や評価を頂けると大変嬉しいです。

勿論頂いたものはすべて目を通し今後の参考にさせていただきますのでよろしくお願いいたします。

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