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おい!あの斧娘が男を捕まえたぞ!!

作者: 空原 幽

新発売のお菓子買ったら想像以上に不味かった。みたいな気持ちでお読みください。



「ぃよっしゃぁああああ!!!」


 こんにちはこんばんはさようなら。

 私の名前はサラ・リーディング。しがない伯爵令嬢でした。

 国立魔導学園に通っておりましたが、先日婚約者であるケイネス・リンデハルト様に婚約破棄をされまして、そのときになんかよくわからない冤罪を突き立てられ、そのお陰で家を追い出されました。


 つまり私は自由!

 もう内蔵を押しつぶすコルセットを付けて足の痛くなるヒールの高い靴を履くこともなく!

 腹の中のわからない面倒な茶会に参加することもなく!!

 なよっちい婚約者におべっかをつかうこともない!!!


 私には前世の記憶というものがあった。

 男として生まれ育ち、うだつの上がらないサラリーマンから脱して陶芸家になった記憶だ。

 有名ではないものの、それでもそこそこの知名度でそれなりに安定した暮らしをしていた。


 だがしかし、大型台風で俺は死んだ。

 死因はわからないが、おそらく豪風で飛ばされてきた何かが家を突き破り、それに当たって死んだんだろう。

 嫁も子もいないまま死んだのは残念だが、まあそれは仕方がないことだ。そんなことはどうでもいい。


 この剣と魔法の異世界に転生した俺は、なんの因果か女として生まれていた。しかも伯爵令嬢だ。くそったれ。

 心と体の違いにゲロを吐きそうになりながら折り合いをつけ、というよりもなんとか受け入れることが出来たのはそれが俺の運命なのだろう。知らんけど。


 伯爵令嬢ということで婚約者を充てがわれ、それが公爵家のケイネス・リンデハルトだったというのは親父頑張ったなとしか思えないが、それでもなんとか私は良き婚約者として接してきたはずだった。


 魔導学園にあの淫売婦が入園してくるまでは。

 異質なピンクの髪と目は愛の神に愛された証とかなんとか、どこのエロゲーのヒロインだよというグラマラスな体型のその女は、またたく間に学園の男を虜にした。

 婚約者之いない男だけならまだしも、私のような婚約者がいる男も虜にし、逆ハーレムを築きあげ、たかが子爵令嬢のあの淫売婦は学園の男を独り占めしたのだ。


 私は別にケイネス・リンデハルトに特別な想いは抱いていなかったが、他の令嬢たちは違う。

 大事な婚約者を寝取ったとしか思えないあの淫売婦をあの手この手で追い出そうとし、逆に汚い方法で追いやられたのだ。

 私まで巻き込まれたのはくそったれとしか思えないが、お陰でこうして自由になれたので水に流すことにする。


 しかしあの学園にいたほとんどの婚約は破棄されたわけだが、あの淫売婦は責任をどう取るつもりなのだろうか。

 少なくとも学園にいた令嬢は学園外の人間と婚約を結び直すだろうし、そうなると多くの少年が独身となるわけだ。ざまぁみろ。

 中には私のように家を追い出された令嬢もいるので、間違いなく貴族の女の数は足りないだろうな。どうでもいいけど。


 閑話休題


 平民落ちという名の自由になった私は冒険者になるのだ。

 剣と魔法があれば当然魔物もいる。魔獣と呼ばれる瘴気から生まれるその魔獣を討伐するのが、冒険者と呼ばれる荒くれ者たちだ。

 しかしこの冒険者、町中の手伝いから魔獣の討伐まで幅広く活躍する大事な人材で、命の保証はしない代わりに税金を納める必要もなく、各国自由に行き来できるという強みがあった。

 しかし魔獣の大量発生などがあった場合は一目散に討伐に向かわなければならないし、特別な理由なく一定期間魔獣討伐を為さなかった場合は処罰される。


 だが、自由だ。

 魔獣を討伐すれば金が貰えるし、命の危険はあるがそんなもの金にはかえられない。金だ、金さえあればいいのだ。


 幸い魔導学園で得た知識や技術で魔獣を討伐することは出来る。

 持ち出せた僅かな金で道具を備え、そうして私は冒険者デビューした。やっはー!


「サラ!そっちに行ったよ!」

「あいよっとぉ!!」


 仲間の声に応えるように私は斧を振り回す。素早さこそないものの、戦斧はあたりさえすれば魔獣に強いダメージを与えることが出来るので楽なものだ。

 振り回すのが大変?そんなもの魔法を使えば楽々よ。

 何より自分とはいえ可憐()な乙女が戦斧を振り回す姿はこう、最高だろう?自分なのが本当に残念だと思うが、令嬢として生きてきた私の見目はそこそこいいのだ。自分だというのがほんとアレなだけで。


「このあたりの魔獣はコイツで最後か?」

「みたいだね。ロドルフォたちと合流しようか」

「そうだね」


 女剣士男剣士男弓士男魔導士に女斧士の私というパーティーは、私という清涼剤がいなければ非常にむさい。

 私の次に華奢なのが男弓士というあたりでお察しである。なぜ魔導士のほうがゴツい体をしているのか。


 そんなパーティーに何故私が交じることが出来たかというと、単に運が良かったというのもあるが、私が治癒魔法を使うことが出来たからである。

 このパーティーの魔導士は治癒魔法が使えない。

 まあ魔導士が三人いれば治癒魔法は一人使えるかどうかという感じなので可笑しくはないのだが、そうだとしてもこの脳筋パーティーはそこそこ冒険者として有名ながら治癒魔法を使えるものがいなかったのだ。

 そこに現れた美少女の私、治癒魔法が使える、戦力にもなる、パーティーに誘わずににいられようか、いやない。


 そんなわけで冒険者パーティーに参加した私は、想像以上の辛さにゲロを吐きながらもなんとか冒険者として生活していた。


「ロドルフォー!」

「おう、そっちも終わったか」


 問題は、このパーティーのむさ苦しさか。女剣士ですらムキムキマッチョなのだ、視界が汗臭い。

 ケイネス・リンデハルトのようななよっちいのも嫌だが、だからといってこのパーティーのような汗臭いのもまた嫌である。


「街に戻ろうか」


 パーティーリーダーのロドルフォの言葉で私たちは街へと戻る。

 ここしばらく魔獣の発生が増えている。冒険者はそのせいで討伐に出ずっぱりで、金は手に入るが休息が足りないとあっぷあっぷしているのだ。


 噂では聖女と呼ばれる存在が死んだだの瘴気に侵されただの言われているが、本当のところはわからない。

 そう言えばあの淫売婦が自分は聖女だなんて言っていた気がするが、あんな淫売婦が聖女じゃこうなるのも当然である。


 冒険者組合に討伐報告をして討伐料を受け取る。

 さーて飯だ飯だ。パーティーで固まって馴染みの飯処へ向かえば、既に何組かパーティーが飯を食べていた。


 そこにお目当ての男がいないのを確認してから席に座る。

 スラム上がりの冒険者パーティーのリーダーを私は狙っているのだ。無駄なく鍛えられた体は男としての意識が残る私から見ても抱かれてもいいと思うほどに素晴らしく、ありふれた髪と目の色でなければどこぞの貴族の庶子だと言われてもいいほどに顔が良かった。

 私以外の女にも狙われているが、そこはまあ顔のいい男なので仕方がないだろう。

 冒険者でありながら穏やかな雰囲気なのもまたいい。じゅるり。


 明日はどこで何を討伐するか話をしながら飯を食っていれば、ざわりと空間が揺らいだ。

 何事かと飯から顔を上げればそこにはなよっちい集団がいた。


 うっわあれケイネス・リンデハルトじゃん。しかもオウジサマとか側近候補もいる。面倒事のにおいがするぞ。


 お貴族様がこんな冒険者の縄張りに何のようだと一触即発の空気が流れる。

 冒険者は安全なところから命令するだけのお貴族様が嫌いなのである。

 私?私はお貴族様じゃなくてただの冒険者なので。


 気配を消しながら飯を口に運んでいれば、最悪にもケイネス・リンデハルトと目があってしまう。

 途端に笑みを浮かべるケイネス・リンデハルトに私は盛大に顔を顰めた。やーだー、面倒事じゃん。


「サラ!見つけましたよ!」

「人違いです」

「いいえ、私が貴女を見間違うはずがありません」


 近寄ってくるケイネス・リンデハルトに続いてオウジサマ方もやってくる。

 パーティーの仲間がお前何したと言わんばかりの顔で見てくるが、そんなの私が知りたいさ。


「サラ、迎えに来ましたよ……私の婚約者」

「私に婚約者なんていう洒落たものはいない」

「どうしたのですか、貴女はそのような汚い言葉を使う方ではなかったはずです……あぁ、冒険者としての荒んだ暮らしが貴女を変えてしまったのですね……大丈夫です、これからは私が貴女を養いますから」

「頭悪いのか」


 こいつ、自分から婚約破棄しておきながらそれをなかったことにしてるぞ。頭可笑しいんじゃないのか。

 しかしケイネス・リンデハルトの言葉に飯処にいた冒険者たちが殺気立っていく。

 まあそりゃそうだ、誰が魔獣を討伐していると思っているのかという台詞は、冒険者を馬鹿にしているととられても可笑しくない。

 オウジサマの金髪碧眼がなかったら、間違いなく暴れてただろうな。冒険者は短絡的だから。一応お貴族様に対しては我慢するんだよ、一応は。


「確かに私はサラだが、あんたとは初対面だ。婚約者だなんて気持ち悪いこと言わないでくれないか」

「君を一人にしてしまったことは悪いと思っている、だからこうして迎えにきたんじゃないか。帰ろうサラ」

「触らないでくれ」


 手を握られるが、それを振り払って立ち上がる。まったく飯が不味くなるじゃないか、どうしてくれるんだ。

 喧嘩を売ろうとする仲間に目配せして宥めつつ、私はいつの間にか飯処に入ってきていた冒険者にしなだれかかった。


「私が帰るところはこいつの隣なんだ、あんたみたいなお貴族様のところじゃないんだよ」

「……よくわからないんだが、何が起きているんだ」

「誰ですかその男は。貴女の婚約者は私でしょうサラ!」


 刈り上げられた茶髪に焦げ茶の瞳、顔だけみれば一級品の私が求めていたスラム上がりの冒険者は、わからないと言いながらもケイネス・リンデハルトにマウントを取れることを察したらしく、これみよがしに私の腰に腕を回す。

 ケイネス・リンデハルトはそれに声を荒げながら詰問してくるからうぜぇなこの坊っちゃん。


「婚約者なんていたのかお前」

「知らない男だよ。いきなり来て困ってんだ」

「……これが寝取りってやつか?」

「いやそれは違う」


 もうあんなウフフオホホの世界には戻りたくないのだ私は。

 汗臭かろうと血腥かろうと、私は冒険者として生きていたい……貴族社会には戻りたくない、あんな、コルセットの悪夢には……うっ。


「サラ!巫山戯るのもいい加減になさい!」

「ふざけてるのはあんただろ。サラ違いだ」


 面倒になったので近づいてきたケイネス・リンデハルトを蹴り飛ばす。

 お貴族様に手を出すなんて処罰ものだが、この世界は嫌がる女にしつこく付き纏うのも処罰ものなので相殺されるだろう。

 喧嘩だ喧嘩だと冒険者たちが騒ぎになるが、その手には乗ってやるものか。

 冒険者を連れて店の外に出る。飯も食わせずに連れ出して申し訳ないと思うが、飯処は他にもあるからそっちへ行ってもらうしかないだろう。


「巻き込んで悪かったな」

「……いや」

「腹減ってるんだろ、他のところ行こう」

「……おい」

「うん?」


 さてどこの店に行こうかと歩きだし、立ち止まった冒険者に引き止められる。

 どうした、そんなに巻き込まれたのが不快だったのか。

 しかしそんな心配を他所に冒険者はほんのり頬を染めながら口を開いた。


「……お前の帰るところが俺だというのは……」

「あぁ、適当なこと言って悪かった、忘れてくれ……まぁ、そうなったらいいなとは思うけどさ」


 この冒険者はどんな女に迫られても靡かないのだ。多分不能か同性愛者なんだと思う。だから私の抱かれたいというのも一方的なものなのだが。


「……そう、なってはくれないのか?」

「……え?」

「……お前が、俺のところに戻ってくるなら、嬉しいと思うんだ」

「……お、おう」


 どうした、どうした。どうした???

 何が起きた、いや何を言われた。混乱のまま冒険者を見つめれば、日に焼けた肌が赤く染まっていることに気がついて、つられて私の顔も熱くなる。

 なん、なんだこの気持ちは。


「……俺のところに、戻ってきてくれるだろうかサラ」

「……あんたが、いいって言うなら」


 あー!あー!いけませんお客様あーー!!!!

 お客様って誰だよ。


 甘酸っぱい雰囲気に流される私は、ここが街中で冒険者の通りが多いということをすっかり忘れていた。

 娯楽の少ない冒険者たちの中でこんな騒ぎが話題にならないわけもなく、向かった飯処でどんなからかわれ方をしたか、それは言うまでもないだろう。


 いや、それにしてもすげぇ恥ずかしいな……

サラ・リーディング(男→女)

元伯爵令嬢の二十歳。戦斧を使う。

転生前が男なので男勝りだが、ちゃんと女という自覚はある。しかし口調は限りなく男。令嬢言葉も一応使えないことはなくもない。


スラム冒険者 ヒーロー

剣士。穏やかというより無関心なだけ。巨乳派。つまりそういうことだ。


ケイネス・リンデハルト

婚約破棄した後本性出したヒロイン()に夢を砕かれた男。

サラが生きている情報を手に入れ迎えに来たが、時既にお寿司


ヒロイン()

よくあるなろう系悪役令嬢ものの逆ハーレムビッチヒロイン。聖女の資格はあった。

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