2.森の村 / 接敵
騒ぎの現場は村の外れ、森との境界線の辺り。
「これは……アタリ、かな」
その魔物は、カマキリを3mぐらいのサイズに大きくしたような姿をしていた。両方の鎌が極端に肥大化していることを除けば、顔や羽の形状も、2対4本の足も、地球のカマキリと大きさ以外は大差ない。
そして、魔物の体からは見覚えのある、紫色をした靄が溢れ出していた。間違いなく『侵蝕スル者』の影響を受けた魔物だ。
「あっ、ヤバっ!」
魔物が鎌を振り下ろす先には村人の姿があった。後ろに子供がいるために、避けることが出来ない様子だった。
「私に任せろ!」
魔物と村人の間に氷の分厚い壁が作り出され、間一髪のところでその窮地を救っていた。続け様に複数の壁が出現して魔物を取り囲む。上に逃げられないように、蓋までしっかり作ってあった。
「グレイスさん! 済まねぇ!」
「いいから早く逃げろ!」
会話から分かるように、氷の檻を作ったのはグレイスだ。
「魔術も使えるのか」
弓を使っていたから、なんとなく魔術は使えないものだと思っていた。ゲームじゃないんだから、そんな制限があるわけもないか。
「過度に連発は出来ないし、掛かる負担も少なくないがな」
その言葉通り、彼女の額には僅かに汗が滲んでいた。1回でこれだけ疲労するなら、確かに乱用は出来ないのかもしれない。
「っと、喋ってる場合じゃなかったな」
魔物の抵抗で氷にヒビが入り始めた。村人の避難はまだ終わっていない。
「ああ、皆が逃げるまで魔物を引き付ける。2人も一緒に――――」
「手伝ってくれるかだって? 仕方ないなー」
棒読みで、本来のものとは絶対に違う言葉を続ける。しつこいようだけど、ここで逃げるのは気が進まない。実戦を経験したせいか少し意識が変わったと思う。
「アテナも手伝ってくれるよな?」
「はい、お手伝いさせて頂きます」
魔導人形の性質上、了承を得る必要はないと思うけど、一応はな。
「まったく、仕方ないはこっちのセリフだよ。……2人とも、ありがとう」
半ば無理矢理だけど了承も得られた。
「ルプスリッターもあった方が良いな」
前の戦闘で活躍した杖や煙幕は使えない。残っている道具から使えそうな物の目星は付けてあるけど、できる準備は万端にしておきたい。
「前回のデータがあるので、装備時間の短縮がある程度は可能となります」
「そいつは重畳。終わったらすぐに加勢してくれ。……なるはやで頼むな」
ルプスリッターを起動させて自分用の武器も準備する。同時に氷の檻が破壊され、魔物が自由を取り戻した。
「前衛と後衛、どちらが得意だ?」
「今日に関しては後ろの方が火力が出るかな」
「なら私が前に出よう。それと、アテナはどういう状態なんだ?」
換装はおよそ4割ほど終わっている。確かに前回より早いみたいだ。
「俺達の最高戦力だ。使い手的な意味でも、装備的な意味でも、な」
「そうなのか。人か見掛けによらないとは言うが……」
確かに外見だけ見るとアテナは華奢で背も低く、とても戦えるようには見えない。でも多分、ルプスリッターのない状態でも剣の補助を受けた俺より強いと思う。
「何にせよ、準備に手間が掛かるのは欠点だけどな。それまでは2人っきり、大丈夫だよな?」
「もちろんだ。……行くぞ!」