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2.森の村 / オリジン

「思ったよりも遠かったな」


 出発したときには既に日が落ち始めていたとはいえ、野宿することになるとは思わなかった。その間に研究室の倉庫を調べたり服装を整えたり出来たから丁度よかったけど。

 今はこの世界の素材と製法で作られた服で身を包んでいる。ついでに、アテナはクラシックなメイド服を着ていた。これもルプスリッターと同じような“ユニット”の一種らしい。性格も変化しないし、普通の服との違いも分からないけど、何かは違うんだろう。多分。

 そして、夜営地から移動すること数時間。目的となる村はもう目の前にあった。


「……帰ってきたんだぁ」


 イヌっこ()()が、思わずと言った感じで言葉を漏らした。ちなみに子供達3人の名前は、移動の途中で教えてもらった。ネコ娘はニーナで、ウサギ娘がキャロルだ。

 2人も、言葉には出さずとも、その笑顔と泣き顔が入り交じったような表情が胸中を物語っている。


「ホラ、行ってきなよ」


 言葉を掛けると、3人とも弾かれたように駆け出した。村の人達も彼女達に気付いたようで、軽く騒ぎが起こっている。


「何度も言うようだが……本当にありがとう。あの子達を助けられたのはシュウ達のお陰だ」


「偶然が重なった結果だよ。一番仕事したのは3人の運じゃないか?」


「フフッ、それでもだ」


 そんな風に会話していると、村の人達がこっちにやってきた。


「グレイス。本当に良くやってくれたな。それで……そこの“オリジン”達のことだが……」


 オリジン? 察するに俺やアテナ(の外見)のことなんだろうけど。オリジン……もしかして“origin”か? 翻訳の魔法が細かいニュアンスをどう処理してるのか、いまいち謎なんだよな。


「彼らは犯人じゃない。むしろ子供達を助けてくれたそうだ」


 村人の中から「グレイスさんがそう言うなら……」とか「オリジンなんて信用できるか!」などの声が次々と上がる。この状況から、彼女が村の人達から非常に信頼されていることと、オリジンとやらが酷く警戒されていることが分かる。


「俺達がここに居たら迷惑かかるかな。引き上げるとするか」


「了解しました。ではこの後の予定はどう致しましょう」


 招待してくれたグレイスには悪いけど、村の人達を不安にさせる必要はない。道中で確認したところ、歩いて数日の範囲にはいくつか他の村や町があることが分かっている。研究室で寝泊まりしてもいいし、無理に留まることはない。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! ……皆の警戒も分かる。だが、彼らが子供達を助けてくれたのは間違いないはずだ! それを追い出すようなことは……!」


 グレイスが俺達を引き止め、村の人達を説得する。リタ達もそれに同調していた。


「俺が言うのも変な気がするけど、余計な面倒は抱えない方がいいんじゃないか?」


「だが……、それならウチに寄って行ってくれないか。せめてお茶ぐらい出させてくれ」


 まあ落とし所としては妥当な感じか。それぐらいなら村に迷惑は掛からないだろう。


◇◇◇


「無理に引き止めて済まなかったな。皆と話している内に少しムキになっていたようだ」


 グレイスの家に着いて、最初の会話はそんな一言から始まった。


「こっちとしては別に。誘拐事件なんてあった以上、警戒されるのは当然だし」


「それでも皆の態度は許されるものではないよ。……よし、こんなもので謝罪にはならないだろうけど、好きにくつろいでいってくれ」


 テーブルに3人分のハーブティーと、ナッツ類や小粒のベリーの乗った大皿が並べられる。せっかくだし、しばらくゆっくりさせてもらおう。


「そういえば、2人は何で旅をしてるんだ?」


 色々と話している内に、その話題となる。


「そうだなぁ……。ザックリ言うと、ある魔物を倒すのが最終目的になるのかな」


「ふぅん、どんな魔物なんだ?」


「実際に見たことはないけど、下手すると世界が滅びかねない……らしい。アテナは何か知らないか?」


 『侵蝕スル者』に関しては俺より詳しいはず。


「あまり詳しいデータは残っていませんが、当時の観測や予測にると、あらゆる魔術の無効化能力や、単体で一国の総戦力と同等と見られる攻撃力を持っているとなっています」


 なにそれ。無理ゲーじゃね?


「それは冗談か何かか? とても人間が敵う相手には聞こえないんだが」


 グレイスも同じ考えに致ったようだ。


「いえ、少なくとも魔術無効化は記録に残っています。攻撃力に関しては、あくまでも予測なので、実態よりも誇張されている可能性はありますが」


「そして実態よりも低く見積られている可能性もある……と」


「止めてくれ。考えるだけでゾッとする。冗談にしても笑えない」


 こんな会話を続けてる最中、突然ドアがノックされた。それも、何度も何度も、激しく叩き付けるようなものだ。


「どうした」


「グレイスさん、魔物が出たんだ! すぐに来てくれ!」


「分かった。それで他の皆はどうしたんだ?」


「見張りの奴らがもう戦ってる。だけど恐ろしく強ぇ魔物で、歯が立たねぇんだ!」


 来客の男は、間髪入れずにまくし立てた。


「1匹しかいねぇのに、やたらと狂暴で様子がおかしいんだ! 体から変な煙みたいなのまで出してるしよぉ!」


 変な煙……? もしかして『侵蝕スル者(イロウシェン)』に影響された魔物なんじゃないか?


「よし、すぐに向かおう」


 グレイスの返事を聞くと男はすぐに立ち去ってしまう。他の戦える人にも声を掛けに行ったらしい。それだけ相手がヤバいということか。


「招待しておいて済まないが、少し待っていてくれないか」


「いや、俺達も行くよ。この一件、もしかしたら俺達の目的と関係するかもしれないんだ」


 グレイスの表情が変わる。さっきの話と関わることだと気付いたみたいだ。


「まさか、世界を滅ぼすという魔物か!?」


「その一部の破片の欠片……みたいな? 多分本体よりは雑魚。だけど、どっちにしても人手は多い方が良いと思わないか?」


 呑気に待っていられる程、太い神経は持っていない。切羽詰まっていたこともあり、最終的に同行を許してもらった。

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