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1.魔導人形 / ルプスリッター

 画面に表示されてるユニットの名称は『ルプスリッター』。どうやら近接戦闘用のユニットのようだ。未完成であることに不安はあるけど、今は少しばかりのリスクは受け入れざるを得ない。


「動きながらの装着は無理なのか。だったら、今度は俺が時間を稼ぐ番だな」


「いけませんマスター。危険です」


「でもこの方法が確実だろ。丁度いい武器も研究室にあったし、少しぐらいなら……なんとかしてみせる。怪物が1体とは限らないし、結局どこに居ても危険なんだよ」

 

 アテナは僅かに迷ったような素振りを見せたが、最終的には俺の意見を認めてくれた。


「分かりました。申し訳ありませんが少しの間よろしくお願い致します」


「ああ。それじゃ装備転送、換装シークエンスを開始する」


 スマホを操作すると、分割されたユニットが研究室から1つずつ転送されて順次アテナに装着されていく。空中に現れたパーツが自動的に動いていく光景はファンタジーよりもSFや特撮ヒーロー物のようだ。

 ずっと見ていたいけど、残念ながらそうもいかない。自分のやるべきことを忘れてはいけないから。

 左手に杖を持ったまま、新たに研究室から取り出した剣を右手に構える。


「……信じていいの?」


 子供達は俺やアテナを交互に見て、そんなことを言う。


「任せとけ。皆はアテナの近くに居ろよ」


 こりゃ逃げられないな。気合いを入れて怪物に向かう。相手はどうも苛立ってるようで、俺が近付いて行くと唸り声を上げて威嚇してきた。


「ほらほら、こっちだ!」


 怪物が振り下ろす爪の一撃を、前転して回避する。ふところに潜り込むと同時に、怪物の足を切り付けて距離を取る。

 

「……ふぅ、結構やれるもんだな」


 ド素人の俺がいきなりこんな動きを出来たのには当然カラクリがある。手品の種は、研究室にあったこの剣だ。これには『使用者の知識や経験の全てを参考にして、行動を補助する』効果がある。

 例えば、ゲームやアニメの動き、スポーツ選手が見せる効率的な身体の操作、アクション映画のようなあらゆる武器の使い方など、思い付く限りの行動が再現できる。


「時間稼ぎなら、なんとかなりそうだな」


 倒せる程じゃなくても、ギリギリで致命傷は受けずに済んでいる。このまま大丈夫かと思ったが、そう甘くはなかった。いくら自分の記憶が元になっているとはいえ、付け焼き刃の技術では崩されるのも一瞬だった。


「……ヤベっ!?」


 攻撃を避けられないと判断し、障壁を張ろうとしたところで杖に異常が起こる。展開された魔法陣にノイズが走り、砕け散ってしまった。先端の宝石からは黒い煙が上がっている。当然、障壁は機能しない。


「ぐっ!」


 剣を盾代わりにしたことで、辛うじて直撃は避けられた。それでも、あまりの衝撃に剣と杖を取り落としてしまった。剣の補助が消えて、理想的な身体の動かし方が分からなくなる。分かったとしても、この痛みでしばらくは動けなさそうだ。


「こんなんで終わりかよっ……!」


 実力以上に思い上がる者は自滅する……だったか? 何のセリフだったっけ。そんなことばかりが頭をよぎる。そして、自分に向かってくる怪物の豪腕が視界にせまり――――


「やぁっっっっ!」


――――飛び込んできた何者かが、怪物を受け止めた。


「ふぅ……大丈夫? マスター」


「アテナ……か?」


 見た目の変化は分かる。軽装鎧を始めとする全身の防具や両手に持った剣と盾はユニットとかいうやつの一部だろう。髪が黒から茶髪に変わっているのもその関係かもしれない。それと、頭や腰から生えている、獣人ウェアビーストのような獣耳と尻尾も、まあいい。ユニットに、ルプス――――つまり狼の名前をかんしている以上、その姿を模しているのも理解は出来る。


「口調というか……雰囲気? なんか違わないか?」


「え、そう? ……ああ、ユニットに合わせて思考ルーチンが最適化されたから、少し違う感じになってるかもね。でも私は私。魔導人形マギアドールとして、マスターの役に立てるように全力で頑張るのは変わらないよ!」


 なんだか分かるような分からないような説明だ。でも今はどうだっていいか。


「まあいいか。……あの怪物、仕留められるか?」


「分かった。マスターは休んでてね!」


 言うが早いか、アテナは既に駆け出していた。


「やぁぁぁ!」


 一瞬で怪物の背後に回り、気合いの入った叫びと共にその背を切り裂いた。その後も、相手の攻撃を最小限の動きで避けては一撃、どうしても避けられない攻撃は盾で受け流して更に一撃、と少しずつ、しかし確実に怪物を追い詰めていく。


「流石。対『侵蝕スル者(イロウシェン)』として造られただけのことはあるな」


 ただし、その力も長くは続かないらしい。スマホにはさっきからカウントダウンが表示されている。ルプスリッターを使える残り時間だ。時間はそんなに長くはない。


「隙はこっちで作るべきか」


 研究室から『ヒールポーション』と書かれた瓶を転送し、中の液体を一気にあおる。顔をしかめたくなるような味だったけど、痛みが引いて動けるようになった。


「とりあえず子供達は無事だな。相手に増援が来る気配もなし。となればチャンスは今だ」


 研究室のリストから使えそうな物を考える。


「この辺とかは面白くなるかもしれない」


 必要な物を揃えて、最初に剣を拾いに走る。まだしばらくは頼らせてもらおう。


「アテナ! 大丈夫か!?」


「ちょっ!? マスターなんで!」


「2人の方が早い! これ使って一気に行くぞ」


「むぅ……了解!」


 少し複雑そうな顔をされたが、最後にはそう返事してくれた。使うつもりの道具についても説明は要らないみたいだ。


「まずはこれから!」


 怪物を前後から挟み撃つ。怪物がどちらを狙おうかと迷い、一瞬だけ硬直したそのタイミングを見逃さずに、残りのスモークを投擲とうてきする。狙い通りに煙幕は怪物を包み、また少し相手の隙が伸びた。


「よし次ぃ!」


「おー!」


 前後から切り付ける。これは動きを無駄にしないためのオマケのようなもので、本命はこの後だ。


「喰らえ、『星の戒め(ステラエルクシィ)』!」


 デコボコした球状の物体を怪物に投げつけた。あれは周囲の重力を一時的に強化する効果を持っている。


――――ガァァァァァ!?


 怪物は地面に縫い付けられて悲鳴を上げる。動きは完全に封じられたようだ。


「アテナ!」


「うん!」


 アテナが怪物の頭上に飛び上がり、剣の切っ先を向ける。当然『星の戒め』の影響を受け、アテナと剣は怪物に向かって急加速していく。


「うぅるぁぁぁ!」


 狼の声のような叫びを上げ、アテナが剣を突き出す。それは怪物の頭を貫いて地面にも到達していた。


――――ガァ、ァァ……ァ………


 段々と怪物の声から力が抜けていき、最後にはその姿すらも光に変わって消えていった。


「終わった……んだよな? なんていうか、綺麗だな」


「魔物の体は全て魔素マナで造られてるからね。活動を停止すると魔素に戻るんだ。『侵蝕スル者』の影響も完全に消えたみたいだね」


 話している途中でスマホのカウントダウンが0になる。ルプスリッターは自動で解除され、研究室へと送り返されていった。


「ぶっつけ本番だったけど、どこか異常は無いか?」


「……はい、確認できる範囲では問題は無いようです」


 口調が戻り、服装も初期状態の普通のものに変わっていた。改めて見ても変化が激しいな。


「しかし、マスター。今回は結果的に無事でしたが、以後は無茶はお控えください」


 叱られてしまった。こっちとしては無茶したつもりは無いんだけどな。これからはなるべく自重するようにしよう。

 他に残る問題は子供達だな。このままハイ、サヨナラって訳にもいかないし、村とか街とかに送っていくことになるだろう。


「よっし、皆どこから来たんだ? 家まで送っていっ……てぇ!?」


 言い切る寸前、足元に矢が突き刺さる。反射的に飛んできた方向を警戒。それと同時にアテナも身構えた。


「……その子達から離れろ」


 弓を射った犯人が姿を見せた。も獣人……なのか? 子供達とは違って顔まで動物のものになっている。弓を持っている手も毛皮に覆われているみたいだ。

 とりあえず敵じゃなさそうだし、なんとか誤解を解けるよう頑張ってみますか。


「アンタはこの子達の保護者だな? 俺達に敵対する意思はない!」


 我ながら胡散臭いセリフのような気がしたが、援護射撃が意外なところから入ってきた。


「待って、お姉ちゃん! この人は私達を助けてくれたんだよ、」


 子供達が庇ってくれた。獣人の彼女も子供達の言葉を無下には出来ないようで、武器を下ろしてくれた。


「……いったいどうなっている? 少し話を聞かせてもらおうか」


 なんとか丸く収まりそうだ。子供達には感謝だな。

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