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1.魔導人形 / 解除

 最初に怪物に狙われたのは男達の方だった。1人目を簡単に仕留めたことで味をめたのかもしれない。


「何にせよチャンスだ。今の内に……」


 子供達の所まで危な気なく距離を詰められた。アテナの方は様子を見ながら、怪物がこっちを見ないように立ち回っている。男達の2人目がついに怪物に組み伏せられたが、彼らを助けようとはしていないみたいだ。そうこうしている内に、子供達もこっちに気付いたらしい。


「? ……っ! いやぁっ!」


 ウサ耳の子がそんな風に悲鳴を漏らした。当たり前といえば当たり前だけど、俺も男達の仲間だと思われてるみたいだ。


「大丈夫……って言っても信じられないだろうけど、俺は味方だよ」


「……嘘だ」


 ネコ耳の子供がキツい目付きでにらんでくる。敵意を向けてはいるけど、手が僅かに震えているのは隠せていない。最後の1人……イヌかな。垂れ耳の子は、オロオロしながら2人を落ち着かせようとしてる。


「信じなくてもいいよ。とにかく()()外さないとな」


 子供達の足には金属の鎖を介して鉄球が繋がれていた。これを外しておかないと、逃げるにせよ守るにせよ支障があるわけで。その重しには何故か鍵穴がなく、もちろん素手で引き千切れるわけもないが、幸い今ならいくらでもやりようはある。


「ちょっと失礼っと」


 スマホを操作して鉄球を撮影する。当然これは只の写真撮影なんかではない。


「よしよし。やっぱり普通の鍵じゃなかったか。こっちとしてはこの方が都合が良かったけど」


「あ、あの……」


 イヌミミの子が怖がりながら声を掛けてくる。意外と彼女が一番度胸があるのかもしれない。


「ああ、心配しないで。すぐ終わらせるから」


「えっと……はい、分かりました」


 案外怖がられてないのか? 他2人はかなり警戒してるみたいだけど。まあ何でもいいか。


「魔法錠の解析完了。魔導回路サーキット制御権のオーバーラ(上書き)イド完了」


 これで3人の拘束は俺の操作で解くことが出来るようになった。そのまますぐに解錠する。


「……外れた? ううっ……やった……やったよぉ」


「ホントに味方、なの……?」


「……あ、ありがとうございます」


 順に、ウサギ娘、ネコ娘、イヌ娘の反応である。なんとなくそれぞれの性格がにじみ出てる感じがするな。ついでに色々と調べてみたけど、他に危険な物の反応はない。彼女達はこれで大丈夫そうだ。


「後はアイツか。倒すか、逃げるか……どっちにしてもかなり難しそうだなぁ」


 怪物はアテナを相手にしている。男達の姿はない。逃げたか喰われたか、おそらく後者じゃないか? いずれにせよ障害が減ったことに違いはない。そう割り切ることにしよう。


「お兄さん……私達、どうなるの……?」


「……ああ、守ってやるよ。約束だ」


 そう言うしかないじゃないか。必死に考えろ。手持ちのふだは多いようで実はそんなにない。

 研究室に保管されている道具類。ほとんどの物が『未完成』『試作型』『調整前』となってたけど、全部が貴重な手札の1枚だ。


「この辺のは使えそうだな……。ああ、アテナの言ってたユニットってこれか」


 実践的なものから、あくまでも実験の域にあるものまで、多種多様な装備が残されていた。


「キャアァァッ!」


 確認に集中し過ぎてたか。子供達の悲鳴で我に帰る。いつの間にか怪物がこちらに向かってきていた。動いていない俺達に気付いたのか。いつまでも仕留められないアテナより、こっちを狙ったのは理にかなっている。


「させるかぁっ!」


 スマホを操作して研究室から武器を呼び出す。先端に大きな宝石が付いた木製の長い棒。いわゆる魔法の杖ってやつだ。手にした瞬間に使い方が頭に入ってくる。『How to use』に比べて情報量が少ないからか、負担はほとんどなかった。

 突進してくる怪物に向けて杖を突き付け、この後に起こすべき現象を鮮明にイメージする。杖の宝石が輝き始め、溢れ出た光が何もない空間に文字や図形を描き出す。そして、完成した紋様――――魔法陣がその光を更に強めたとき、俺達と怪物の間に巨大な半透明な壁が現れた。


ギャアァァァァ――――!?


 唐突に出現した壁にぶつかり、怪物は悲鳴を上げて仰け反った。


「よっ、と」


 光の壁が消えると同時に、研究室から幾つか筒状の道具を取り出して怪物に投げつける。それらは怪物の足元で大量の煙を吹き出し、その視界を奪った。


「今の内だな。とりあえず離れるぞ」


 子供達は小さく頷いて動き出した。全員、足は震えていても歩くのに支障はなさそうだ。そして、そこにアテナも合流する。


「申し訳ありません。想定より手強く、抑えるのに失敗してしまいました」


「いや、時間稼ぎには十分だった。よくやってくれたな。それより……逃げられると思うか?」


 煙幕は消え始めている。スモークはサンプル品だったようで、もとも量はほとんど無い。


「現状から考えて、撃退もしくは討伐が適当かと思います」


「だな。試作品のユニットは使っても大丈夫なのか?」


「現時点では使用時間が限定されている状態です。短時間であれば使用できます」


「分かった。短期戦で片を付けるぞ」


 煙が晴れ、怪物の姿が見えるようになった。さあ、ここからが正念場だ。

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