転移再び
「痛ッ!」
頭部に強い鈍痛を感じ、再び目が覚めると草原に倒れ込んでいた。頭に石が当たったらしい。その石を握りしめながら立ち上がる。目の前に広がる景色は明らかに日本ではなかった。広がる草原の向こうは高い山脈がそびえており、その上をあからさまに鳥ではない何かが飛んでいた。
「ここは、また異世界か?」
京翔は呆気にとられる。異世界から戻ってきたと思いきやまた異世界に飛ばされたのだ。当たり前である。
「あの時見たのはまやかしであったのか?」
京翔は目が覚める前、死んだ自分の姿を見た。あれは確かに京翔自身であることは本人が一番よくわかっている。しかしなぜ自分がいたのか。ドッペルゲンガーなのか、やはり考え終わらない。
「あのぅ、大丈夫ですか?」
草原に寝転がりながら考え続ける京翔に話しかけてきたのは青と白のワンピースを身に着けた少女であった。
「あ、ああ。大丈夫だ。」
「よかったぁ、死んでるのかと思いましたよ。」
「ちょっと考え事をしていたんだ。」
「考え事ですか?こんなところで?そんな恰好で?」
少女は首をかしげる。そんなに変なことをしていたのであろうか。少女に尋ねると思っていたよりも強い声で、
「そうですよ!何言ってるんですか。ここは弱いとは言ってもCランク程の魔物が出てくるんですよ!」
「そう・・・なんだ。」
京翔は少女の勢いに押されて声が出せなかった。
「そうなんです。もしよければ一緒にポルの町まで行きますか?」
「町?どこら辺にあるの?」
「あのシギア山脈を超えた先にありますよ?」
少女は草原の奥にある山脈を指さす。
先ほど見渡したように、視界に人が居そうな場所はなく、そして魔物がいるときた。もしこれを逃したらいつ人が通るかわからない道で数日後に餓死、もしくは魔物に食われて死んでしまうであろう。そうしたことを踏まえた京翔。
「一緒に連れて行ってください。」
この人を頼ることにした。
「わかったわ、荷台に乗ってくれる?」
牛と馬を足して割ったような動物が牽いている荷台に乗せてもらう。荷台の中には果物の入った木箱が乗っていた。
彼女の名前はラミィ、チルノという田舎町からポルへと果物を売りに行く途中であったらしい。ちなみにポルまではここから一日ぐらいらしい。チルノ?ポル?わけわからん。
「なんで俺を拾ってくれたんだ?」
新しい単語を覚えながら京翔はふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「んー、なぜかって聞かれると京翔が悪い人ではないとわかったからかな。」
「見ず知らずの人の善悪をどうして分かる?」
「私は見えるから。」
ラミィは自分の目を指さす。その眼をよく見てみると彼女の茶色の瞳は色がわずかに違っていた。
「魔眼、知ってる?昔の人は結構持っていたらしいのだけれど今は稀に表れるらしいですよ。」
「その魔眼が善悪を判断するものであると。」
「そうよ。過去に盗賊だった人、殺人を犯した人、それらの人はオーラが黒く。逆に人道的な人、救いの手を差し伸べた人、その人達はオーラが白くなる。オーラは白と黒とで中和され透明に見える。だから白色のオーラが見えたあなたは善人だと判断したわけ。」
またしても分けわからない。この世界はオーラというものが存在するのか。完全に異世界だな。
「これから行く…ポルだっけ。そこに図書館的な場所はあるのか?」
「図書館…何か調べたいことでも?」
「まあな」
まずはこの世界の情報が欲しい。その情報でなくてもこの世界の法律であったり、元の世界に戻りたい。
「情報を得たいのであれば、ギルド協会ですかね。まあ、情報によってはギルド加入が必要ですけど。」
「ギルドに加入すると何かメリットがあるのか?」
「商業ギルドだと国から商業権を得られたり、冒険者ギルドだとギルドから依頼を受けることができたり、何かしらを売るとき手数料がかからなくなったりするわ。」
「まずはギルドに入ってみるのも手か。」
「そうですよ。私は冒険ギルドに入っていますよ。」
御車に乗るラミィは非常に楽しそうな顔をしながら話し続ける。話をしつづけた俺は途中で疲れて深い眠りに落ちてしまった。
『なぜ動く?考える?』
ふと、声が聞こえる。
「それは帰りたいから」
『どうせ自分を理解してもらえないあの世界に?』
「・・・」
『愚者、それがお前の行動理念ではなかったのか?』
「・・・」
『まあ、考えるといいさ。』
謎の声は次第に薄れていき、そして京翔は覚醒する。