えっ、帰れるの?
青年はグルっと部屋を見渡すとそこから飛び降り、ギャラルの前へと着地した。
「で、お前がギャラルで間違いないな?」
青年は笑顔を浮かべながらギャラルに質問する。
「くそっ、なんでこいつがここにいるんだよ。野郎どもやっちまえ!」
ギャラルが周りの手下に命令すると京翔を見張っていた奴らも腰から短剣を抜くと青年を牽制し始めた。
「ああ、できればやりたくはなんだけれど…しょうがないか。」
すうっと青年の顔から笑顔が消え、鋭い青年は腰につけていた剣を構えた。しかし青年の剣は包帯のような布切れでくるまれており、鞘に入ったまま固定されている。青年は剣を鞘のまま構えたのだ。
一閃、いや一瞬だろうか青年が淡い光を発したと思いきや瞬きをした瞬間にギャラル以外の盗賊すべてが足と手首の腱を切られ無力化されていた。どうやって移動したのか、鞘に入れたままどうやって腱を切ることができたのか、そんな疑問は京翔の頭にはなくただ青年の変わりように恐怖をしていた。
「これで終わりだ」そう青年が言うとギャラルの首筋に剣を突きつける。
「ああ、そうだな。降参だ。」
ギャラルは両手を挙げ、降参の意を示した。
「そうか、それはよかった。」
青年は笑顔に戻ると近くに落ちていた枷でギャラル達を拘束し、こちらへ近づいてきた。大丈夫か、と京翔の拘束を解くと手を差し伸べた。
「ああ、大丈夫だ。ところでここはどこであんたは誰なんだ?」
「なんだ、知らないのか。ここは王都グラン、俺は…シェイドだ。気軽に呼び捨てで呼んでくれ。」
「俺は京翔だ。助けてくれてありがとう。俺も呼び捨てでいいぞ。」
「じゃあまずは俺がこいつらを憲兵に突き出す準備をするから続いてこいつらが拉致していた人たちを連れてきてくれるか?」
京翔がうなずいたことを確認するとシェイドは安堵したような表情をしてから何かを京翔に投げつけた。それは何かの鍵でそれを受け取ったことを確認したシェイドはギャラル達の回収に向かった。
京翔は部屋を出ると厳重な鍵がしてある部屋をいくつか見つけた。先ほどシェイドから貰った鍵を使って開ける。中にはボロボロの服を着た子供から両手足を縛られた若い男女が捕まっていた。一人ずつ丁寧に拘束を解いていく。全員の拘束を解いて説明し終わるころにはシェイドがギャラル達をまとめ終わっていた。
シェイドは京翔にこの街のことを教えてくれた。京翔が興味深く聞いているとシェイドは少し考えた後、京翔に話しかけた。
「もしかして、京翔は異世界から来たのではないか?」
それは不意を突かれた質問で京翔は一瞬戸惑った。
「その感じだと正解なようだな。」
「なぜ、そんなことを…」
「京翔は帰りたいか?」
京翔はまたしても戸惑う。実際帰りたいかと質問されれば答えは是だ。しかしこのシェイドは先ほどの盗賊から助けてくれたいい人かもしれない。けれどまだ信用できない。
「仮に俺が異世界から来たとしてそれがどうしたんだ?」
「いや、もしかしたら可能かもしれないからさ。君はどちらから来たんだ?」
「どちらとは?」
「空の国か水の国のことだ。どちらにせよ帰るんだろ?それには急いでポータルまで移動しないといけない。」
シェイドはギャラル達を憲兵に引き渡し、京翔をポータルまで案内する道のりでポータルの使用方法について説明した。
「ポータルはこの王都グランの中心に設置されている転移装置だ。まずは台の上に乗り刻印されている魔法陣の真ん中に立つ、下の魔法陣が鈍い赤色に光り始めたら行きたい場所を思い浮かべる。光が青色になったら目を瞑る、次に目を開けたらもう転移は完了している。」
「安全なのか?」
京翔の問いにシェイドはコクリとうなずく。
「それが信用に値する理由は?」
「…ない、が信じてもらうしかない。」
京翔はシェイドがまだ信用に足る人物だとはいまだ思えないが今のところ帰る方法があるのであれば試してみる価値はあるのではないかと考えた。
暫くすると広い円形の広場に着いた。真ん中にはストーンヘンジのように周りを石に囲まれた石舞台があり、その台の上には先ほど言われた通り魔法陣が刻まれていた。
「ここだ。今の時間は誰もいないから早めに移動するんだ。」
シェイドはそういうとお礼を言う暇なく消えるようにその場を去った。
残された京翔は恐る恐る舞台の上に立ち少し待つ。思い浮かべるのはあの時見た夕焼け赤い光が変化し青い光が京翔を包みこむ。そして目を瞑る。
・
・・
・・・
目を開けるとそこに広がっていたのは赤と蒼のグラデーションに染められた夕焼け空だった。