異世界転移
京翔が目を覚ましたのはそれからすぐだった。
京翔がいたのはどこかの木の上、葉や小枝が服のいろんなところに付いている。気が付いた時の格好も上下反転していた。まるで誰かがゴミを捨てるかのように放り投げたようだった。
さっきのは夢か?寝ぼけて歩道橋から転げて街路樹にでも落ちたのだろうか?
京翔はそう考えながら木から降りようとするが上手い具合に枝の隙間に挟まっているのか全くと言っていいほど抜け出せない。
ガサガサと音を立てながら試行錯誤をしていると突然バキッという音とともに下へと落下した。
京翔は腰を摩りながら立ち上がりまわりを見る。
どこだここ?
周りは全くと言っていいほど見慣れない景色。床は土を固めたもの、建物は鉄筋コンクリートなどではなく石や木材を主に使用している。そして極め付けは歩いている人の中に犬の耳や、鱗がある人がいることだろう。
京翔はなんとなくだが理解した。
これが俗に言う異世界転移なのだろう。と。
京翔は友達に勧められて、何度か異世界転移を元としたラノベを読んだことがあった。
ただ、その時の感想は"ありえない"だった。トラックに轢かれて死ぬ。まぁこれは現実でもあり得るだろう。
死んだ人が異世界転移する。まぁこれも死後のことを知らない以上あり得るのかもしれない。
転移者が神様かなんかから特別な能力をもらう。…これはありえないだろ。
まず、世界には70億人以上の人がいる。それだけ人がいれば一日に死ぬ人も多いだろう。その中で残念な死に方をしたから転生転移させてあげる?それはすごく都合が良くないか?
しかし、現実に異世界転移なるものは起こってしまった。考えてもわからなくなった京翔はどうしようもなくなり、現状を確認することにした。
衣服は血濡れているがさっきまで着ていた制服、持ち物はポケットに入っていたスマートフォンとハンカチのみ。しかも肝心のスマートフォンは圏外、ろくにアプリも入れていないため使える機能としてはカメラ、時計そして懐中電灯ぐらいだろう。持っていても意味のない代物となっていた。
あれこれしているうちに夕方になっていた。とりあえず交番的な役割の場所がないか探そうと町の中心へと向かうことにした。
「おい、そこの小僧。」
歩いていると後ろから声をかけられた。それはとても悪意がこもっており、それを無視して歩こうとすると前の脇道から顔中に傷をつけ、サバイバルナイフを持った男らが出てきた。
「なぁ、俺らもそこまで乱暴はしたくないんだわ。少しおとなしくしてもらえるか?」
後ろから声をかけてきた他の奴らよりも一回り大きい体格をした男が後ろから京翔にナイフを突きつけた。
動いたら殺す。そう言われているのと同義でそして京翔はそれに従うしかなかった。
夜になったらしい。唯一の光は小さな天窓から漏れる月の光のみ、後ろで手を拘束され口には猿轡、周りには京翔と同じように捕まった人たちで溢れていた。あいつらは盗賊だった。
ガチャっと扉が開くのと同時に盗賊が入ってきた。
「あー、どこだぁ。お前か。ちょっとこっちへ来い。」
「ちょっ、な…」
京翔は首を引っ張られ、引きずられる。突き出されたのは盗賊の親玉の前だった。
「俺の言うことに正直に答えれば痛い目を見ずに済む。これはお前のか?」
そう言って盗賊の親玉は手に持っていたものを俺に見せる。それは京翔のスマートフォンだった。京翔がスマートフォンを奪い返そうとするが横にいた盗賊に組み伏せられてしまう。
「その様子だとお前のらしいなぁ。このアーティファクトの使い方を教えてもらえるか?」
そう言って親玉は京翔の猿轡を外すように俺をここまで連れてきた下っ端に支持をする。
「いやだ、と言ったら?」
「そりゃあ、こうなるなぁ」
親玉はそういうと京翔の顔を蹴り飛ばした。口の中は血の味しかしなくなる。
「さあ、話す気になったか?」
京翔が口を開こうとしたその時。上から大きな爆撃音。すぐに『襲撃!』という盗賊の連絡が広まる。親玉はチッと舌打ちをすると俺を邪魔だと言って壁の方へ蹴り転がした。下っ端は京翔を壁にある鎖で動けないように固定した。
盗賊は親玉の支持に従いながら襲撃に対応していく。しかし状況がよくないのか親玉は焦りの表情を見せ始める。
ここがどこだかもわからないし、この状況もわからない。いったい何が起こっているんだ。
京翔は分けがわからなかったがその現状を静観することにした。
暫くすると天井が消える。
「ここにもいたのか。そしてお前が盗賊のギャラルだな?」
頭上から響く声。顔立ちの整った赤髪の青年がこちらをのぞき込んでいた。