空島
「あの人たち、移動し始めましたね。どうしますか?」
「まだ、泳がせておこう。あいにくこの島には食料になりそうなものは一つもない。疲弊したところを叩くとしよう。」
森を歩く京翔とラミィ、その姿を遠目に見つめる翼人の二人。その気配に気づくことなく二人は森の中を自分たちの勘だけを頼りに歩いていく。
「方向はこっちであっているんですかね?」
「わからない。適当に北の方向に進んでいるだけだからなぁ。」
「なんで北ってわかるんですか?」
「なんでって、木の根元に苔が生えている方向に進んでいるからだな。北は太陽の光をそこまで受けることができないから補償点の低い植物が育つんだ。」
「へー、京翔さんは博識なんですね。」
暫く北へと進み続けると遠くの木々の間から明るい光が差し込んでいるのが見えた。
「京翔さん。光ですよ。もうすぐ森を抜けますよ。」
「ああ、見えている。」
はしゃぐラミィをよそ眼に京翔は冷静だった。
ラミィはその京翔の姿を面白くないと思ったのか、頬を膨らませながら光へと向かって一人走り出した。
京翔も光を見て鬱葱とした森をやっと抜けるのかと安堵したのは事実であるが、地球から転移してきた京翔だからこそ懸念できることがあった。
一つ目は地球にはなかった魔力のようにこの世界に存在する未知への懸念。
二つ目なぜこの世界の人、翼人には翼をもっているのかということである。
人と魚で呼吸法が鰓呼吸と肺呼吸で異なるように、必要がない指の間の皮膜がなくなったように。動物はその生活環境に応じて体を変質させる。
そしてラミィが森を抜ける直前、京翔の頭の中に二つ目の懸念に対してある仮説が立った。
「止まれっ、ラミィ!!」
「へっ??」
ラミィは京翔の呼びかけに足を止める。同時に、ラミィが蹴とばした小石が奥へと転がり、そして見えなくなった。ラミィはその光景を目の前にして悲鳴を上げることなく、腰を抜かしていた。
京翔が追いつき、ラミィと同じ光景を目にする。
その光景は京翔が想像していたよりも遥かに現実離れした光景であった。
青い空に浮かぶのは白い雲だけではなく、まるで雲のように島が浮いている。
もちろん、京翔達が居る場所も空に浮いた島であり、ラミィはあと一歩足を進めていれば島を真っ逆さまに落ちていっていたところであった。
「ここって空の上なんですね。」
「ああ、翼人が何で翼をもつかわかるか分かったな。彼らはおそらく翼で飛びながらこの島を移動しているのだろう。」
「じゃあ、他の人は下に落ちて行ってしまったのでしょうか?」
「いや、他の島に飛ばされた可能性はある。落ちていったとしても風系統魔法を使用すれば落下でのダメージは少ないだろうし、他の島へと移動することも可能じゃないか?」
「前線にいた人たちなら可能性は高いだろうけれど、私たち補給部隊は言わずもがな後方支援部隊も戦闘用魔法への適正が低いからそこへ配置されていた。人一人を飛ばすほどの魔法なんて噂に聞いたブースターでもないとできませんよ。」
「島に着地していることを願うしかないか。」
「そうですね」
現状ではどうしようもないということないということを理解して森の中へと戻っていく。
二人は切り株に腰掛け、この後の行動について話合い、夜を明かすことにした。
「彼らは何をしているんですかね?」
「さぁ?翼のない獣のやることは意味が分からない。」
高い木の上の二つの影は未だに二人の姿を見つめるのであった。




