紫崎 京翔
突風が吹き荒れる。
沈む太陽によって染められた空の赤と蒼のグラデーション。
浮かんでいる雲は照らされて紫色に染められている。
その光景はとても美しく、とある人は仕事によって疲れた心を癒し、ある人はその情景を手に持つスマートフォンで写真に残そうと手を上に上げている。
その中の一人、紫崎 京翔もその光景を駅前の道から眺めていた。
彼、紫崎京翔は愚者であった。
正確には愚者と呼ばれていた。
自分の生活に支障の出ない最低限の行動しか取らず、勉強も単位が取れる最低限の量しか行わない。彼のこの行動を見たすべての人は総じて愚か者と罵りそして愚者と陰では呼ばれるようになった。
なぜ彼が愚者になったかはいずれ話すとして、彼は帰路につくために集まった人をかき分けながら進んでいた。
太陽が沈みきる直前、街中のビル群は真っ赤な閃光に包まれたように染まり、一部が蒼かった空もすべてが赤色に染まっている。
「終末か?」
京翔は一瞬そう思ったが立ち止まることもなく歩き続けた。
そしてすぐに終末のような空はすぐに暗黒に包まれた…
歩いていると京翔は突然の強風に見舞われた。
先程、黒い影が横切っていったように見えたと思ったが…
そう思い京翔は一度立ち止まり、影が通り過ぎて行った方向を向いたが誰もいなかった。
歩き出そうとした京翔は続けて横腹に強い衝撃受けた。グハッと声を出しながら京翔は横へと吹き飛ばされた。
気付くと京翔は空にいた。
どちらかというと"空にいた"ではなく"落ちている"が正しい表現だろう。ただ、京翔にとってはどちらでも良かった。飛ぶという能力がない人間にとって、パラシュートやグライダーなどの器具なしで空にいることは死を意味するのと同義だからだ。
少しの浮遊感の後、京翔の体は重力に従って落ちていく。背中から受ける風は次第に強くなる。視界には夜空と視界の隅に映るビルの影と巫女装束を着た少女。
京翔が少女を視認するとすぐに消えてしまったので多分風で飛んでいるビニールかなんかを見間違えたのだろう。
景色が、音がゆっくりと流れていく。
ビルの影が大きくなる。
歩いている人たちの声が聞こえ始めた。
地面が近くなっているのだろう。そう考えた瞬間、激痛という言葉だけでは言い難いほどの痛みを生じ、〇.一秒も待たずして体が冷たくなるのを感じた。そして京翔の視界は暗転した。




