メリッサの魔導書
白い空間。その中にじっと立っているだけで気が狂いそうだ。
とりあえず歩いてみた。まっすぐ、まっすぐ…
暫く歩くと霧が晴れるように目の前が色づき始めた。
景色が次第に鮮明になっていく。はっきりと見えたその景色は京翔が通っていた高校の教室であった。
夕焼けに染められた教室。窓際の席に一人、京翔は座っていた。
俺は何していたんだっけ?
京翔は外を眺める。グラウンドには部活終わりの野球部がグラウンド整備をしていた。
京翔しかいない教室に下校を促す放送が響く。
帰るか。
京翔は帰路へ着いた。歩いて最寄りの駅へと向かう。
電車の中、スマートフォンでニュースを見る。
いつもと変わらない世界、いつもと変わらない日常、そのはずなのに何かが気になる。
電車から降り、歩く。ビル群から見える景色は終末のような美しい景色であった。
そこから少し行ったいつもは通らないオフィス街、今日はそこになぜか気を魅かれる。
京翔は気の向くままにその場所へと歩き続ける。
そしてたどり着いた。目の前には花が手向けられており、地面は血だろうか、うっすらと赤い色がしみ込んでいる。
そして手向けられた花に向かって手を合わせる一人の少女がいた。
少女は目を瞑りながら「ごめんなさい」と呟いた。
「君は…」
京翔はその少女に手を伸ばす。
その瞬間、暗転。次に目を開けると知らない天井があった。体を起こすとそこにはランパードの姿があった。
「おやぁ、目を覚ましたかい。」
ランパードは京翔が目を覚ましたことを確認すると隣の部屋へと向かい、戻ってきた時には保健医であろう白衣を着た女性を連れていた。
女性は京翔の下瞼や舌、心音等を確認した後、次に自分の名前や今いる場所がどこか等質問をした。全てが正常であることを確認できたのか保健医はランパードと京翔に話し始めた。
「魔力が少し乱れたぐらいで今は特に問題ないようだね。もし何か異変があったらすぐに私かこの阿呆に話すんだよ。」
「いやぁ、アスリー君。阿呆はひどいじゃぁないかね?」
「阿呆は阿呆だろう?なんで生徒が使用する図書館に『メリッサの魔導書』があるのさ。」
「…それは、私のミスだねぇ。」
この保健医はアスリーという名前らしい。京翔は先ほど職員室でこの女性が座っていたのを思い出した。
アスリーの言葉にランパードが言葉に詰まる。そこで京翔は質問をしてみた。
「すいません。魔導書って何ですか?」
「魔導書は魔法が付与された本の事さ、その人に魔力の使い方を教えたり、本を開くだけでその付与された魔法を使用できたりするのだが、今回の魔導書は『メリッサの魔導書』と呼ばれるものだ。千里眼の魔法が付与されていると言われている。使用すると魔力操作ができない人は抜け出すことができない危険な魔導書さ。」
あのままであれば京翔は抜け出すことができなくなっていたのだと教えられ、少し寒気がした。
「今日は疲れているだろうから、自室にもどって眠るといい。私もランパードと話さないといけないことがあるからね。」
アスリーはランパードを睨む。このままだといろいろ巻き込まれそうだと考えた京翔は保健室を後にすることにした。




