プロローグ
泡沫の世界はいずれ弾け消えるだろう。
「・・・っ」
黄昏時を過ぎ、次第に暗くなり始めた街を暗黒が染めていく。
人が行き交う街の中、細い裏道を通り抜け、人々の間を潜り抜け、ビルの上を走り抜ける2つの影があった。
前を走る人は黒と紺を基調とし、金の刺繍が入った服を着ている。フードを被っているようでよく顔が見えないが、走り方からまだ余裕があるように見える。
後ろを走る人は巫女のような服を着ている小さな女の子。美しく、そして輝くような白く長い髪をなびかせ、息を上げている様子から全力で走っているのだろう。
最初は1メートルほど出会った距離も、次第に開き始め10メートルぐらいになった頃、前を走る影は右手を前に出した。すると前方2メートルぐらいのところに黒紫色をした円形の
窓のようなものが出現した。追いかける女の子は同様にして前に両手を突き出して円形をした白色の窓を出現させ、両者ともにその中へと入っていく。両者が入った窓はすぐに消える。
先ほどとは違う場所へ出現した黒紫の窓からフードの男が飛び出して走り出す。それを追うように少女も白の窓から飛び出して走り出す。
これを何回繰り返しただろうか。
フードの男はまだ余裕を保ったまま走っているが少女はもう限界のようだ。フードの男はその隙間からニヤリと口角を上げ、窓を出現させるとその中へと飛び込んだ。少女は朦朧としながら窓を出現させその中へと飛び込もうとした。
しかし不運なことだ、少女はとある二つのミスを犯した。
一つ目、少女は疲れていたせいでその窓と少女の間に高校生であろう制服を着た青年が歩いてくるのに気づかなかった。そしてそのまま少女は男子を巻き込みながら一緒に窓の中へと入っていった。
窓の外は空だった。
正確には高層ビルの端だった。少女と青年はそのままの勢いで空から地上へ落ちていく。出てきた出口の横ではフードの男が笑いながら手を振っていた。それは少女がやってしまった二つ目のミス。
少女はフードの男の窓の出口の座標をコピーして追いかけていた。それに気づいたフードの男はそれを逆手に取り、少女を高い位置から落下させることによって逃走のための時間稼ぎをしようと企んだ。ついでに通行している人に衝突し、体勢を崩したまま落下して死んでくれればなお良いと考えていた。
ぶつかった人が一緒に落ちていくのは少し想定外だったが別にフードの男にとって自分のやりたいことがやれればそのような命などどうでもよかった。
落下していく少女はフードの男が黒色の窓を出現させ、逃げるところを見ているだけしか出来なかった。少女は自分の不甲斐なさに少し涙を浮かべると白光する窓を出現させ、その中へと飛び込む。
飛び込んだ後思い出したのは一緒に落下した青年のこと。
急いで戻ってみると青年は地面に紅の花を咲かせていた。
これから始まるのは身の回りに存在し、近くにあるが遠い話。
世界は小さな泡沫の集まりでできている。
世界は青葉で大きな木にたくさん生えている。
世界は紐で事象が絡み合うことでできている。
本質は同じだが見る者にとっては全く異なるように見える。
これから始まる物語もその中の一つに過ぎないのだが…




