↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/241

留置所

 某警察署内。

 いや、もはや現職の警察官など1人もおらず、桜島達の隠れ家として使われている今は、元警察署と言うべきか。

 地下からここに移って来た面々は、桜島達と面通しし、各自次の予定まで思い思いに過ごす事となった。


 トイレに行く者。

 椅子に座って休む者。

 禁煙所に行って久々に一服する者(地下では煙が充満するので、煙草は禁止というルールが設けられている)。

 腹ごしらえする者。

 署内を案内してもらっている者。


 と、様々だ。その内案内してもらっている者はというと…


 「これが留置所ですか…」

 「本物の牢屋初めて見たは…」

 「で、さっき見た面会室や取調室とは大した距離じゃないけど、往復する度に手錠(ワッパ)と腰縄付けられるらしいよ!」

 「へー…」


 留置所からはそんな会話が聞こえてくる。

 声の主は、鬼童町嵐子・冬樹カエデ・新堂姉妹だ。

 嵐子のガイドで署内を案内してもらっているのだ。途中、桜島達の仲間と何度もすれ違い、その都度挨拶を交わした。

 そして今、ここにいる。


 「ドラマとかでしか見た事なかったけど、本物の牢屋はやっぱ雰囲気が違うわね有希子!」

 「えぇ、あっそうだ!どうかしら登紀子!実際に暫く入ってみる?勿論、鍵はかけて!」

 「いや何でよ⁉」

 「だってあなた、この前、食糧調達の時に言ってたじゃない!「生きて帰れたらあたしは、留置場でも鑑別所でも喜んで行くわよ」って!そして今、本当に留置所にいる訳だし…」

 「いやいや、確かに言ったけどそれは、言葉の綾で…」

 「ふふふ、冗談よ冗談!」

 「あんたが冗談言うなんて珍しいわね…」

 

 と、そんな双子の姉妹の会話にカエデが入って来た。


 「はいはい、時間無いからそこまで!それに、心配しなくても、あなた達みたいな良い子達は、こんな所とは一生無縁よ!だから、見物だけにしときなさい!」

 「「はーい!」」


 と、姉妹がハモって答えた。

 が、その直後、


 「一生無縁ね…」


 と、嵐子が呟いた。


 「嵐子さん、何が言いたいんですか?」

 

 カエデがすかさず返した。


 「あぁ、聞こえた?いや何、この世に犯罪とは無縁な奴なんて居ないとあたしは思うはよ。あんた達だって被害者じゃなく、加害者になる可能性は十分あるって事よ!」

 「加害者に!」

 「そっ、だぅてそうでしょ!真面目に生きた人間がある日突然犯罪者になるケースはザラにあんのよ!酔っ払って人に暴行を働いたとか、自動車事故で加害者になる可能性だってあるし、仮にやってなくても冤罪で捕まる事だってあるからね…」


 と嵐子は話し続けた。その顔は何か寂しげだった。


 「嵐子さん…」

 「あっ悪いわね変な空気にしちゃって…」

 「いえ…嵐子さん…何かあったんですか?」

 「…実はアタイ…辰馬とツーリングしてた時、危うく事故を起こしかけた事あってね…」

 「事故を!」

 「あぁ、バイクで走ってて他所見してたら、後を走ってた辰馬が大声出して、慌てて前見たら道路に子供が飛び出しててさ。咄嗟に避けて相手の子供は無傷で済んだんだけど、下手してら取り返しの付かないことになってたって話さ…」

 「そんな事が…」

 「しかも、遂制限速度オーバーしててね。下手すりゃあの子は命を…そしてアタイは今頃は、塀の中だったのよ…」

 「……」


 嵐子の告白に3人は息を呑んだ。


 「あの頃のアタイは、自分のバイクテクニックに自惚れてたんだよ。でも、その一件がトラウマになって、暫くバイクに乗れなくなってね…けど、辰馬が支えてくれたおかげで何とか克服できたんだよ!」

 「辰馬さんが!」

 「あぁ、実を言うとここいる面子の殆どが、辰馬の世話になった事のある奴なんだよ!」

 「そうなんですか⁉」

 「あぁ、皆が皆、色んな理由でやさぐれたりして、周りから煙たがられたりしてたんだ。言わば、社会からのはみ出しものさ。でも辰馬はそんな連中の面倒を見てやってるんだ。あいつは昔から、面倒見のいいやつでね、おかげでアチコチの奴らから慕われてんだよ!かく言うアタイは、元々幼馴染みで仲良かったけどね!」

 「へぇー、桜島さんって凄くいい人ですね嵐子さん!」

 「まあね!」


 嵐子は少し自慢げだった教会それを見て登紀子は、


 「で、そんなあの人に惚れたと!」

 「まあね…って、はぁ!」

 「とっ、登紀子いきなり何言い出すのよ!」


 声を荒らげた嵐子と、それを諌める有希子。


 「隠さなくても、態度見れば分かりますよ!嵐子さん、あなた桜島さんの事…」


 登紀子がそこまで言うと嵐子は、


 「ばっ、馬鹿な事言うんじゃないよ!アタイと辰馬はただの幼馴染みであって、その…」


 嵐子の言葉はそこまてで言って途切れた。


 「……だぁー辞め辞め、この話は以上!次の所行くよ!」


 そう言って嵐子は、顔を赤らめながら、恥ずかしそうに留置所から出ていった。

 残された3人は、


 「あれは完全に図星ね!」

 「登紀子!人をからかわないの‼」

 「でもあの2人、あたしはお似合いだと思うけど…そうだ、桜島さんにその気があるか聞いてみよーかな!そして大阪(ここ)から脱出したら、即ゴールインなんて事も…」

 「登紀子…」


 ガシッ!


 次の瞬間、有希子は登紀子の腕を掴んだ。

 

 「登紀子あなた…本当に暫く牢屋の中に入った方が良いかもね!」

 「えっ!」

 

 予想打にしない有希子の言葉に、一瞬言葉を失う登紀子。気付けばカエデも無言で登紀子のもう片方の腕を掴んでいた。

 2人がかり登紀子を連行する。


 「えっ、ちょっと、有希子!カエデさんも!」

 「この中で頭冷やしなさい!」


 登紀子を中に入れようとする有希子。


 「やっ、やめてってば!ゴメンナサイ!冗談ですーー‼」

 

 登紀子の悲痛な叫び声が留置所内にこだました。

 その日初めて、自身の姉の怖さを目(ま)の当たりにした登紀子だった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。