留置所
某警察署内。
いや、もはや現職の警察官など1人もおらず、桜島達の隠れ家として使われている今は、元警察署と言うべきか。
地下からここに移って来た面々は、桜島達と面通しし、各自次の予定まで思い思いに過ごす事となった。
トイレに行く者。
椅子に座って休む者。
禁煙所に行って久々に一服する者(地下では煙が充満するので、煙草は禁止というルールが設けられている)。
腹ごしらえする者。
署内を案内してもらっている者。
と、様々だ。その内案内してもらっている者はというと…
「これが留置所ですか…」
「本物の牢屋初めて見たは…」
「で、さっき見た面会室や取調室とは大した距離じゃないけど、往復する度に手錠と腰縄付けられるらしいよ!」
「へー…」
留置所からはそんな会話が聞こえてくる。
声の主は、鬼童町嵐子・冬樹カエデ・新堂姉妹だ。
嵐子のガイドで署内を案内してもらっているのだ。途中、桜島達の仲間と何度もすれ違い、その都度挨拶を交わした。
そして今、ここにいる。
「ドラマとかでしか見た事なかったけど、本物の牢屋はやっぱ雰囲気が違うわね有希子!」
「えぇ、あっそうだ!どうかしら登紀子!実際に暫く入ってみる?勿論、鍵はかけて!」
「いや何でよ⁉」
「だってあなた、この前、食糧調達の時に言ってたじゃない!「生きて帰れたらあたしは、留置場でも鑑別所でも喜んで行くわよ」って!そして今、本当に留置所にいる訳だし…」
「いやいや、確かに言ったけどそれは、言葉の綾で…」
「ふふふ、冗談よ冗談!」
「あんたが冗談言うなんて珍しいわね…」
と、そんな双子の姉妹の会話にカエデが入って来た。
「はいはい、時間無いからそこまで!それに、心配しなくても、あなた達みたいな良い子達は、こんな所とは一生無縁よ!だから、見物だけにしときなさい!」
「「はーい!」」
と、姉妹がハモって答えた。
が、その直後、
「一生無縁ね…」
と、嵐子が呟いた。
「嵐子さん、何が言いたいんですか?」
カエデがすかさず返した。
「あぁ、聞こえた?いや何、この世に犯罪とは無縁な奴なんて居ないとあたしは思うはよ。あんた達だって被害者じゃなく、加害者になる可能性は十分あるって事よ!」
「加害者に!」
「そっ、だぅてそうでしょ!真面目に生きた人間がある日突然犯罪者になるケースはザラにあんのよ!酔っ払って人に暴行を働いたとか、自動車事故で加害者になる可能性だってあるし、仮にやってなくても冤罪で捕まる事だってあるからね…」
と嵐子は話し続けた。その顔は何か寂しげだった。
「嵐子さん…」
「あっ悪いわね変な空気にしちゃって…」
「いえ…嵐子さん…何かあったんですか?」
「…実はアタイ…辰馬とツーリングしてた時、危うく事故を起こしかけた事あってね…」
「事故を!」
「あぁ、バイクで走ってて他所見してたら、後を走ってた辰馬が大声出して、慌てて前見たら道路に子供が飛び出しててさ。咄嗟に避けて相手の子供は無傷で済んだんだけど、下手してら取り返しの付かないことになってたって話さ…」
「そんな事が…」
「しかも、遂制限速度オーバーしててね。下手すりゃあの子は命を…そしてアタイは今頃は、塀の中だったのよ…」
「……」
嵐子の告白に3人は息を呑んだ。
「あの頃のアタイは、自分のバイクテクニックに自惚れてたんだよ。でも、その一件がトラウマになって、暫くバイクに乗れなくなってね…けど、辰馬が支えてくれたおかげで何とか克服できたんだよ!」
「辰馬さんが!」
「あぁ、実を言うとここいる面子の殆どが、辰馬の世話になった事のある奴なんだよ!」
「そうなんですか⁉」
「あぁ、皆が皆、色んな理由でやさぐれたりして、周りから煙たがられたりしてたんだ。言わば、社会からのはみ出しものさ。でも辰馬はそんな連中の面倒を見てやってるんだ。あいつは昔から、面倒見のいいやつでね、おかげでアチコチの奴らから慕われてんだよ!かく言うアタイは、元々幼馴染みで仲良かったけどね!」
「へぇー、桜島さんって凄くいい人ですね嵐子さん!」
「まあね!」
嵐子は少し自慢げだった教会それを見て登紀子は、
「で、そんなあの人に惚れたと!」
「まあね…って、はぁ!」
「とっ、登紀子いきなり何言い出すのよ!」
声を荒らげた嵐子と、それを諌める有希子。
「隠さなくても、態度見れば分かりますよ!嵐子さん、あなた桜島さんの事…」
登紀子がそこまで言うと嵐子は、
「ばっ、馬鹿な事言うんじゃないよ!アタイと辰馬はただの幼馴染みであって、その…」
嵐子の言葉はそこまてで言って途切れた。
「……だぁー辞め辞め、この話は以上!次の所行くよ!」
そう言って嵐子は、顔を赤らめながら、恥ずかしそうに留置所から出ていった。
残された3人は、
「あれは完全に図星ね!」
「登紀子!人をからかわないの‼」
「でもあの2人、あたしはお似合いだと思うけど…そうだ、桜島さんにその気があるか聞いてみよーかな!そして大阪から脱出したら、即ゴールインなんて事も…」
「登紀子…」
ガシッ!
次の瞬間、有希子は登紀子の腕を掴んだ。
「登紀子あなた…本当に暫く牢屋の中に入った方が良いかもね!」
「えっ!」
予想打にしない有希子の言葉に、一瞬言葉を失う登紀子。気付けばカエデも無言で登紀子のもう片方の腕を掴んでいた。
2人がかり登紀子を連行する。
「えっ、ちょっと、有希子!カエデさんも!」
「この中で頭冷やしなさい!」
登紀子を中に入れようとする有希子。
「やっ、やめてってば!ゴメンナサイ!冗談ですーー‼」
登紀子の悲痛な叫び声が留置所内にこだました。
その日初めて、自身の姉の怖さを目の当たりにした登紀子だった。




