散布
紫苑特製の虫除けの薬剤を散布する時間が訪れた。
「そろそろ時間だな!」
時計を見ながら高倉が発した。
自身の腕時計に向けていた視線を、走に向けた。
「準備は良いかね⁉」
「何時でもいけます!」
「よし、頼んだよ山口くん!」
「おまかせを!」
「しくじるなよ、走!それ1個しかないんだから。」
「分かってるって!」
薬剤の設置は、走が担当することとなった。選ばれた理由は単純に、足が早いというだけだが。
「使い方はさっき説明した通りだから、説明通りやってね!」
「大丈夫、地面に置いて、真ん中の軸の部分をフタのヤスリ状の部分で擦るんだろ⁉擦って数秒程で煙が出る!だろう⁉」
「オッケー!問題なさそうね。」
「流石にこれ位は理解できたわね!」
と、カエデが言う。
「うっせーな!これ位出来るに決まってんだろ!!」
走が言い返す。
「そう言う痴話喧嘩は後にしてくれないか…」
「「痴話じゃない!!」」
高倉が呆れたように言い、それに走とカエデが声を揃えて叫んだ。
「冗談だよ冗談…それよりも、大声出さないでくれ…」
「「あっ…」」
高倉が2人を軽く注意した。
そもそもの原因は彼なのだが…
「高倉さん…くだらない事やってるうちに、時間ですよ!」
「あっ、いかん!」
時刻は、彼自身が周りに指定した時間ギリギリになっている。
「高倉さん、今は風も無いですし、散布するのに丁度いいですよ!」
正一が外の様子を確認しながら言った。
「よし、山口くん頼む!」
「ハイ!」
威勢よく返事すると走は素早く道路の真ん中に、紫苑特性の薬剤の缶を設置した。
手順通り、フタのヤスリ状の部分で軸を擦った。
軸の部分から極小の火花が出たのを確認した走は、一先ず近くに身を隠した。
擦ってから数秒後、説明通り薬剤の煙が勢いよく吹き出し、辺に薬剤が散布された。
突然自身が苦手な成分の煙が充満し、数匹いた蚊は蜘蛛の子を散らすよう逃げ出した。
「よし、今のうちだ!!」
高倉が叫ぶと、辺りの店舗に隠れていたメンバーが一斉に飛び出した。全員、匂いを防ぐためハンカチ等を顔に当てている。そして、最初の目的地である、桜島達の待つ警察署に向かって走り出した。
皆が皆、同じ方向に向かって走る。その様はさしづめ、ゴールドラッシュのようだった。
辺に広がった煙の匂いで蚊は、近づけないでいる。
「このままいける!」
多くの人がそう思った。
しかし、…
ヒューヒュー
そこに突然、強い風が吹いた。それにより、折角の匂いが散ってしまった。
「マズい!こんな時に強風が…」
「くっ、来るぞ!」
邪魔するものがなくなり、蚊は絶好のチャンスとばかり、彼らに向かって飛来した。
そして、最後尾にいた中年の男性に針を向けた。そして、
「ギャ~!」
「倉井さん!」
1人犠牲者が出た。それを見て剣持は、今亡き友の姿を思い出した。この位置からでは助ける術はない。剣持は
歯を強く食いしばった。
「くっ…早くも死者が…」
「よっちゃん…ん⁉そういえば三船さんにブライアンさん、新堂さん達はどうした?姿が見えないが…」
「そういえば…大石君等も…」
「何かあったのか?」
姿の見えない者達が気にはなるが、探してる余裕など全く無い。蚊は更に迫ってくる。
「もうやるしか無いみたいだな!」
「ああ!」
意を決し、武器を持つ者の何名かが、武器を構えた。武器を強く握りしめ、迫りくる蚊に矛先を向けた。
その中には走と正一、剣持がいる。
「こい、化け物蚊め!」
こちらに向かってくる蚊に、武器を握る手に更に力が入る。
その直後、
パンパンパン!
突然、機械音が鳴り響き、直後、蚊が次々と墜落している。
「なっ、何だ⁉」
一同が困惑していると、
「おーい、大丈夫か⁉」
聞き覚えのある声がした。それは、
「三船さん!」
リーダー格の1人三船だった。その側に、新堂姉妹にブライアン、大石と近松もいる。
が、一同にとって、それよりも気になる事があった。
それは、三船が持つコントローラーのような物と、彼の前にある、小型の戦車だった。
今年はここまでです。来年もよろしくお願いします。