外
「それじゃあ、開くぞ!」
高倉が地下の出入り口を少しだけ開いた。
隙間から差し込んだ手鏡で、周囲に蚊が居ない事を確認した。
「大丈夫…みたいだな…それ!」
確認し終えると、皆が皆、素早く外に出て、周囲の建物の隅に身を寄せた。
「よし、一先ず、全員いるな⁉」
高倉が目視でメンバーを見渡した。
一同はいよいよ、外へと出てきた。
今いるのは、日本橋の辺りだ。桜島達と合流する為、バリケードをして封鎖していた箇所を開放し、ここに出てきたのだ。
巨大な蚊による事件から何日経過したのか?ずっと日のない地下で暮らしていたので、殆どの者が日時の感覚が麻痺していた。
おおよそ20日程だ。脱出作戦のため、多くの者が外に出たが、全く出ておらず、約20日ぶりの空の下に出た者も少なからずいた。20日ぶりの電球(人工)の光でない、本物の太陽光。
「ウッ……」
「目が……」
突然、苦痛の声を上げる人が複数名現れた。その人物らは、この20日ろくに外に出てない者達だ。
長らく太陽光を浴びておらず、電球の光ばかり浴びていたので、20日ぶりの太陽光は、彼等の目にかなり刺激があったのだ。
皆が皆、顔をすくめ、強く目をつむる者がいる。これではまともに歩けない。
が、そんな事もあろうかと思って!、と、言わんばかりに、
「皆さん、コレを使ってください!」
正一がサングラスを配った。
武器調達の際、数日ぶりの太陽光を強く感じた為、この事態を想定し、用意していたのだ。
「オー、有り難い!」
「ありがとう、助かるよ!」
サングラスを受け取った人々が口々にお礼を言った。
「流石よっちゃん、準備良いわね!」
カエデが正一を称賛した。
「まさに、備えあれば憂いなし、ってやつだな!」
「なんでアンタが威張ってんのよ⁉」
正一でなく、走が自慢気にしているのにカエデがツッコミを入れた。
そんなやり取りの横で、
「俺達、遂に外に出てきたんだな…」
「あぁ、やっとあのジメジメした地下とお別れだ!」
「でも、暗くジメジメしていたあんな所でも、いざ離れるとなると少し名残惜しい気がするな…」
「まあな…」
等という、やり取りを交わす者がいた。
住めば都とまでは言わなくとも、地上よりも安全で、横になれていただけに、今までいた隠れ家を後にするのを惜しむ者も少なからずいるのだった。
「そんな感想を言うのは後だ、行くぞ!」
「丁度よく、今この辺に蚊はいない。今の内にだ!」
高倉と三船が先導し、再び歩みだした。
日本橋の、左右に様々な商店が立ち並ぶ箇所。
各種飲食店にレトロゲームを扱っているショップ、ホームセンター顔負けの数を扱っている金物屋、お下劣本やソフトを扱っているビデオ店等、様々だ。中にはどうやって経営して行けているのか不明な店も珍しくない。
そんな場所の道路を南に向けて行進する。今いる場所から南下した方に、桜島達が居る警察署がある。そこで桜島達と合流する予定となっている。
歩きながら、
「今の所は、順調だな!」
「ああ、だが絶対に油断はするな!何処から蚊)が襲ってくるかわからないからな!」
そんな会話をしていた。
が、そんな会話をする事も、彼等にはままならないのか。
前方から奴が現れた。
「皆、止まれ!」
「来るぞ!」
噂をすれば影とはこの事か、彼等の進む方向に蚊が姿を表した。
2匹いる。見たところ、向こうの方はまだ、こっちには気づいてはいないようだ。
「やっぱりな。そんな都合良くはいかんか…」
「どうする?」
「2匹位なら、何とか出来ると思います!」
「殺るか⁉」
大石と近松が戦闘態勢に入った。
が、直様高倉が静止した。
「いや駄目だ!無駄な戦闘は避けるべきだ!」
「そうだ、出発したばかりだ。最初からそんなに飛ばしてたら、すぐにバテるぞ!」
高倉と三船の言葉で2人は一旦、矛を収めた。
「一先ず、隠れよう!」
「そうだな。でも固まってたら見つかりやすい。何組かに別れて隠れるんだ!幸い、隠れる場所は沢山ある!」
「「急げ‼」」
2人が両サイドにある商店等を指さした。
そして全員が、各々の近くの店へと身を隠した。