3人の出会い
少し過去に入ります。
亀山に行く予定日が決まり、2人は残っていたジュースで軽く乾杯をした。気づけばもう10時過ぎだ。カエデには自分から知らせとくからと言い残し、正一は帰っていった。再び1人になった走だが、久々に友人に会え話に花をさかす事ができて満たされた気分になっていた。
付けっぱなしだったテレビは、夜のニュースをやっており、キャスターと女子アナがコメンテーターの評論家、テレビとかでたまに目にする大学の学者に某大物芸能人達といった顔ぶれと共に、難しい顔して硬い話をしていた。硬い話の苦手な走はチャンネルを変えようとリモコンを構えると話が変わり、大阪と京都の県境付近で変死体が発見されたというニュースの字幕が表示された。
キャスターが事件を説明する前に走はチャンネルを変えた。
「県境付近ってそう遠くでもないな、平和な日本なんて嘘だな。世の中物騒な話ばかりだ。」
そのまま日付が変わる位までテレビを観て過ごした走は、戸締まりをして布団に入った。しかし、2時間程前まで友人と盛り上がったせいか、中々寝付けなかった。
「来週の木曜久々に3人揃うのか…」
ふと走は昔を思い出し始めた。
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走達3人の出会いは幼稚園だ。とはいえ最初から3人一緒というわけではない。最初は走と正一の2人が仲良くなった。当時わんぱくだった走と頭の良い正一。一見、正反対の2人だが園のお遊戯で同じ組を組む事になり一緒になった所、意気投合したのだった。以降、一緒に遊ぶ事が多くなった。カエデとの出会いはそれからまもなくだ。
カエデこと冬樹楓は違う組で教室も離れていたので入園以来、面識が全くなかった。
何時ものように2人が一緒にいるときだった。近くに園長先生が掃除をしているのを見つけ、走がイタズラを仕掛けたのだ。イタズラといっても掃除している園長先生の後ろから近づき驚かすといった他愛のないイタズラだ。走がターゲットがしゃがんだところを見計らいイタズラを仕掛けたところ、成功し園長先生は軽く尻もちをついた。
「こらー!」と園長先生は叫ぶがその声に怒りは感じられなかった。子供のイタズラと怒ってはいなかったのだろう。成功し一目散に逃げ出そうとする走の前に、1人の女子児童が立ちふさがった。それが冬樹楓だった。
「あなた園長先生に何してるのよ、イタズラはダメってお母さんに言われてないの?」
「何だよお前?カンケーねーだろが!」
「関係無くない、園長先生にあやまんなさい。」
「うっせー!」
そのまま2人は言い争いになった。正一が止めに入ったが収まらず、とうとう先生が仲裁に入り、ようやく収まったが2人の間は険悪な状態だった。
幼稚園が終わり帰宅後、2人が近所の公園で遊んでいる。
「たく!にしても生意気な女だ!」
「走、まだ怒ってるのか?」
「当たり前だ!思い出しただけでもムカつくぜ。」
走がムカムカしていると、ふと前方から人の言い争う声が聞こえた。そこ中に聞き覚えのある声があった。見ると、カエデと近くの高校生数名が言い争いになっていた。
「ゴミのポイ捨ては良くないって知らないの?」
「うるせーガキだな、生意気だぞ!」
どうやら、ゴミをポイ捨てした高校生達に対してカエデが注意したらしい。気の強い彼女らしい行動だ。
「どうする走?」
「どうするって…」
あれこれ考えてる内に、高校生達がカエデの腕をつかんだ。見るからに危ない事は必至だ。
「クソ、こうなりゃ…」
「待て走。」
飛び出しそうな走を正一が制した。
「相手は高校生だ。力じゃ敵いっこない」
「じゃーどうすんだよ⁉」
「一か八かだけどやってみよう。」
「離してよー!」
「うるせー、痛い目にあいたいみてーだな!」
その時離れたところから、叫び声が聞こえてきた。
「お巡りさん!こっちです。高校生が子供をいじめてます。」
「‼ちっ…おい行くぞ。」
カエデの手を離すと高校生達は退散していった。
「上手く行ったみたいだな。」
「ああ!正一の作戦どおりだ!」
「作戦なんて大袈裟だ。」
察しの通り、今の叫び声は二人が出したものだ。そのままでは明らかに子供の声なので、走が声色を変え、正一が持っていたハンカチを口に当てて叫んだのだった。
無論上手く行く保証は無く、ぶつけ本番だったが結果は上々だ。
「ねーあなた達。」
「‼」
二人が振り返るとカエデがいつの間にか近くにいた。
「今のあなた達でしょ?」
「しっ、知らねーよ!たまたまここにいただけだ。」
走が答えるが嘘だと丸分かりだ。嘘つくのが苦手な走は顔に出ていた
。
「嘘よ!顔に書いてあるわよ。」
「違うって言ってんだろーが!相変わらず口うるさい奴だな。」
「なんですってー!」
「あーあ、また始まった…」正一が呆れ顔で呟いた。
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「それからだったな。何だかんだで俺ら2人にカエデを加えた3人で遊ぶようになったのは。もう15年位前の話だな、早いもんだ。」
走は懐かしいな気分になっていた。その後もカエデとは時折喧嘩して、それを正一が止めるなんてことが何回も行われ、そんなこんなで現在に至る。高校が別になってからは、一緒に過ごす機会は減ったが、今でも交流がある2人は家族同等な存在だと走は思っている。
そんな2人と来週久々に揃う。それだけで少し気分が高まってくるのを走は感じ、そのまま眠りについた。
遅くなったけど、前話の象亀山は架空のものです。