タイムカプセル
「なあ走、突然だけど次の休みって何時だ?」
正一が唐突に聞いてきた。
「何だよ、よっちゃん。いきなり話変えて?」
走が聞き返す。
「そのまんまだ。いや、次だけでなく、今後の休みも聞きたいんだ。」
「休みったって知ってるだろ。バイトだけでなく、派遣とかもしてるから、休みと言われてもはっきりしないぜ。」
走は、現在食品会社の工場でのバイトは週4程やっているが、空いた日には、派遣や日雇いの仕事をしているのだ。1人暮らしとはいえ、バイトだけでは少々生活も厳しく、失業した親に負担をかけたくない上少しでも仕送りしようと、殆ど休みなくはたらいているのだ。
「それくらい承知の上だけど、少々急がないと時間も暇もないんだよ」
「時間?なんの話だはっきり言えよ。」
「そうだな、悪い事しようって話でもないし。ずばり、象亀岳にタイムカプセル堀に行こうぜ。」
「タイムカプセル?」
走は普段あまり使うことのない言葉に対し少々大げさに叫んで答えた。
「タイムカプセルって…あぁ、確か、亀山に昔埋めたやつだろ。」
「そう、そのタイムカプセルだ。もう10年前になるな。」
象亀岳とは走達の育った町から自転車で数十分の所にある大きな山のことだ。とても大きな山でまるで象亀の甲羅の様に立派な山なので象亀岳と名付けられたとされており、通称「亀山」と呼ばれている。近くにはビル等も少なく、遠く離れていても目に付く巨大さを誇っている。
タイムカプセルとは走達3人が皆10歳の頃に象亀岳に埋めた物だ。カエデが用意したプラスチックの箱の中にそれぞれの持ち寄った物を入れ山頂付近の分かりやすい目印がある所に埋めていた。
「いやぁ、懐かしいな。皆無事に10歳になれたのを記念して3人で10年後に掘り出そうって約束したっけ。すっかり忘れてたぜ…」
「だろうな。俺も最近まで忘れてたけど、この前難波の方でカエデとバッタリ合ってな、その時偶々思い出したんだよ。それで、お前にも声掛けて掘り出しに行こうって話になったんだ。大事な話だから直に話したくてな。」
「そういう事だったか。確かに、今年がその10年目だ。あの頃は皆、子供だったけど、今じゃ皆成人とは早いもんだな。しかし、時間がないって、どういう事だ?」
「忘れたのか?カエデの奴、来月から半年程留学する予定だろ!」
「!あっそうか。今年の初め頃から留学予定だって言ってたっけ!?仕事が忙しくて忘れてたぜ。」
「そっ。だからこのままじゃ、10年が過ぎてしまうんだよ。別に過ぎたら二度と掘り出せないって訳でもないが、カエデの帰国後にしても俺らは来年の春で4回生。就活とかあるし、卒業後も仕事で忙しいから中々3人揃う機会なんてないだろう。だから、今のうちに掘り出しに行こうって話になったんだよ。走のメインのバイトはまだしも、日雇いの方は自分で調整できるだろ?」
「なるほど、それでわざわざ寄り道して来たって理由か。そうだな、何だか話してたら懐かしくなってきた。たまには仕事の事も忘れて童心に帰ってみるか!」
「よーし、決まりだ。早速、予定を確認しよう。カエデのスケジュールは把握してある。」
「待ってろ。シフト取ってくる。」
2人は3人分の予定表とにらめっこして、丁度3人共休み又は時間を取れる日を探し、都合の良い日を見つけた。
「よし、そんじゃ来週の木曜に決定だな。」
正一が高めのテンションで叫んだが。
「ああ、その日も何か派遣に行こうと思ってたが、まだ申し込む前だったからな、予定変えても誰にも迷惑かからないから丁度いい。」
「何より、大安だ!」
「それそんなに重要かよ?」
2人はハハハと軽く笑った。