飴
「美味いなこの飴!」
「本当、体に染みるようだ。」
走と正一も有希子に貰った飴を舐めて、舌鼓をうっている。
「そんな大袈裟ですよ、これ何処でも売ってるやつですよ?!」
有希子の言うように、彼女の持っている飴は、某有名な製菓メーカーのロゴが入った量産品だ。一袋百円位でスーパーやコンビニ等、アチコチで買える品だ。
「それでも、疲れた身体に、甘いものは効くんだよ。」
「確かに、ここに帰って来るまで、緊迫感が半端ないからな…」
「そーそー、ここに着いたなり、緊張の糸が切れて、一気に疲れが出たわよ、あたしも…」
「ところで新堂さん、この飴はどうしたんだい?元々持ってたって訳では無さそうだが…」
大石が有希子に問いかけた。例の日、この地下に避難した者達は、各々の持っている食糧を一纏めにしたのだ。食糧は現状現金よりも貴重だ。なので、奪い合い等が起こらないよう、全員で管理する事が決まったのだ。最も、船森達は拒否していたらしいが…
集めた食糧は、毎日少しづつ、地下のメンバーで分けて支給された。ある者は、まるで戦後の配給の様だと声を漏らしていたという。
その後も、最初の食糧が無くなると代表者が調達に出るシステムが何時の間にかだが、出来ていた。代表者が集めた食糧もまた、分けて支給される。
地下では、そういう風にして、生き長らえてきたのだ。
「あぁ…実は登紀子が百貨店から持ってきたんですよ、何時の間にか…」
「登紀子さんが⁉」
「そっ!」
と登紀子がしてやったり、と言った感じの顔で答えた。
あの時、食糧は諦め置いてきた筈だが、彼女はこっそり一袋忍ばせていたのだ。ここまで来て、手ぶらで帰りたくないという意思での行動だとか。
「全く、あなたって子は…」
有希子は妹の登紀子を窘めたが、当の本人は、悪びれる様子は無かった。
が、実のところ食糧を隠し持ったのは彼女だけでなく、他のメンバーにもチラホラいたのだったが、それは又、別の話である。
兎に角、飴の残りは貴重な食糧として、リーダー各達の所に持っていくこととした。自分達だけで独占しようとは、この場のメンバーには居なかった。
等と話していると
「よっ、ここにいたのか。」
「あっ、辰馬さん!」
リーダー各達と話しをしていた辰馬がやって来たのだ。
「話しは終わったんで?」
「ああ、だから上に戻るつもりだ。長居してたら上や警察署の仲間達も心配するからな。」
「あなたが辰馬さんで。初めまして、私、新堂有希子と言います。」
「あたしは登紀子よ(なかなかイケメンね…)」
と新堂姉妹が挨拶した。新堂姉妹は辰馬と合うのは初めてだったので、軽く自己紹介をした。
「桜島辰馬だ、よろしくな!」
辰馬も返して。
「ねー走によっちゃん。桜島さんとは、どんな風に出会ったの?」
カエデが聞いてきた。
「そういえば警察署をアジトにしてるらしいけど、何でまた、警察署に行ったりしたんだ?」
近松も聞いてきた。
「そう言えば、詳しくは話していなかったな。」
「詳しく話す暇なかったからな仕方ないさ。」
「俺達が警察署に向かったのは、たまたま彼等のアジトとなっている警察署を偶然見つけたからだよ。」
と、剣持も話に加わり、辰馬達との出会いを語りだした。
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再び時間は遡る。
武器調達班のメンバーは、金物屋や、ドラッグストアでの調達を終えた後、走が警察署を見つけた時の事だ。
「走、まさか強力な武器って…」
「そのまさかだ。銃だよ!銃!」
走はグーの状態だった右手の親指と人差指を伸ばし、銃のジェスチャーをした。
「本気で言ってるのか?」
「銃刀法というものがあるんだぞ!(って、人のこと言えないか…)」
剣持が自身の刀を見ながら、心の中で呟いた。
「そこ位、俺だって知ってるさ。でも、手に入れば心強いぜ。」
「確かにそうだが…」
正一と剣持は頑なに拒んだ。が、走が子供や年寄りも大勢いる。皆を守る為だ等と説得し、最終的には二人共折れた。
仲間達にも説明し、走達は警察署へと向かう事となった。
蚊に警戒しながら、署へと近付いた。
「蚊は…いないな…」
「あぁ…だが油断するなよ…いつ現れるか分かんないんだ…」
「分かってるさ。」
「何かあったら直ぐに逃げるぞ。退路は俺が確保する!」
と、剣持が何時でも抜刀できる姿勢で言った。
いつも以上に頼もしく感じた。そしてそのまま彼等は、警察署へと入っていった。
最近話に、強引だったり、色々と無理があるように感じてきてます…




