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ブラッディ・モスキート  作者: Mr.ゴエモン
脱出作戦
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報告会

 生き延びたメンバーが、地下隠れ家に帰って来た。それを残っていた人々が迎え入れた。地下に残っていたのは、高齢者・子供・怪我人等が大半だが、万が一に備えて元気な者も残っていたのだ。

 ほんの半日にも満たない時間だったが、一同には何十時間にも感じた。皆が皆、疲れ顔だ。普段から体を鍛えている大石達も幾分疲労感が出ている。各自、床や簡易的な椅子に腰をおろしている。

 そんな中、約1名帰ってくるなり、自分のスペースに直行する者がいた。齋木紫苑である。例の生け捕りにした蚊を抱え、研究室へ向かった。近くにいた高倉達に対し


 「これから大事な作業をするから、いいって言うまでは、誰も入らないで。後、静かにしててね。」


 と、言うなり返事も待たずに、そのまま研究室に籠もってしまった。相変わらず素っ気なかった。


 場所は変わり、ここはリーダー各達のスペース。そこに各班のメンバーの中から代表者数名が揃っている。武器調達班・食糧調達班が、それぞれ成果及び出来事を報告する為である。

 しかしその前に、例の男の紹介が行われた。


 「桜島(さくらじま)と言います。以後よろしく。」

 「私は高倉だ。こっちは三船。」

 「三船だ、よろしく。」


 軽く挨拶を交わした。

 例の男の名前は桜島辰馬(さくらじま たつま)。年は22歳。

 走達の話によると、武器を求め訪れた警察署で出会ったのだった。彼はそこで多くの若者達と共に籠城しており、そこのリーダーを担っていたと言う。そして食糧調達班の危機を知り、例の警察車両で駆けつけたのだと言う。

 彼等の所持している銃火器は、元々警察署にあった、警察官等の備品を拝借したのだという。本来なら犯罪だが、今は皆、その事については口に出さなかった。


 「食糧調達班を助けてくれてありがとう。私が代表して礼を言うよ。」

 「礼には及ばないっすよ。俺等が勝手にやった事だ。」

 

 桜島の紹介と事の経緯の説明、高倉からのお礼が終わると、本題の報告会が行われた。

 武器調達班からは、走・正一そして剣持の3人が。食糧調達班からは、大石と近松の2人が代表として出席している。

 

 「それではまず、武器調達班から報告してくれ。」

 「ハイ。」


 武器調達班の成果は、某劇場付近の金物屋等から貰った、「包丁」「スコップ」「鉄パイプ」「熊手」等や、防具用の「鍋」「鉄板」等。そしてドラッグストアから貰った「各種スプレー」「医薬品」等、沢山仕入れて来た。


 武器調達班は豊作だった。しかし、食糧調達班の方は散々たるものだ。アクシデントの為、食糧調達を途中で断念した。その上、複数名の犠牲者が出てしまった。


 「以上です。こんな結果になってしまい、申し訳ありません…」


 大石が本当に申し訳無さそうな顔で謝罪した。

 横の近松も、それに合せて頭を下げた。


 「頭を上げてくれ大石君。近松君もだ。君達のせいだなんて、誰も思っては無いよ。話を聞いたが、そういった事情では仕方ない。」

 「そうよ、あなた達が責任を負う事無いのよ!」


 御子柴が慰めるように言った。

 他の皆も、大石等を励ました。その言葉に大石は、少し救われた。


 「それでは今日はこの辺で解散しよう。あっ、桜島君。君にはもう少し話を聞きたいから、出来たらもう少し時間をくれないか?」

 「俺はかまいませんが、上の奴らにその事を、連絡しときたいんすけど、いいっすか?」

 「勿論だとも。」


 そして辰馬は、徐に懐から小さめの機械を取り出した。それはトランシーバーだった。何でも、いざという時に仲間と連絡を取れるように持っているのだ。今の大阪では、何故か携帯が使えない状況にある。しかし、幸いにも、トランシーバーは使えたのだった。彼の仲間の中に、無線機に精通した人物がおり、提供してくれたのだ。

 辰馬はトランシーバーで上の仲間と連絡を取り、それが終わってから、高倉達と会談を始めた。

 それを尻目に走達は、居住スペースに戻った。そこでは、カエデが新堂姉妹といた。

 

 「どうだった。話は終ったの?」

 「ああ、一応な。」


 カエデが先に口を開き、走が返した。それから、姉妹の姉、有希子が、


 「お疲れ様です。帰ったばかりなのに…」


 有希子が報告会に出席したメンバを労った。そして片手に持った小袋を差し出した。


 「あのこれ、飴です。良かったらどうぞ。」

 「いいのかい?悪いね…」


 走達は飴を一粒づつ受け取った。が、大石と近松は手を伸ばそうとしなかった。あの事を、まだ引きずっているいるようだ。それを察したのか有希子は、

 

 「さぁ、大石さん達もどうぞ!」

 「いや…でも…」

 「もーいいから受け取んなさいよ!男がうじうじしないの!」

 

 妹の登紀子が叱咤した。


 「登紀子の言うとおりですよ。私達を助けてくれた、勇敢なお二人らしくないですよ!」


 その言葉を聞き、大石は、


 「新堂さん…分かったよ。それじゃあ遠慮なく貰っておくよ。」

 「それじゃあ、俺も1つ貰うよ。」

 「どういたしまして!」


 大石達も飴を受け取り、包を開け、口に含んだ。飴の甘い味が口に広まったのを感じ、


 「美味しいよ、ありがとう新堂さん!」


 と、お礼を言った。

 その言葉に有希子は、微笑みを浮かべた。それを見た大石は、少しだが救われた気がしたのだった。


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