悪巧み
船森達は隠れてカエデ達を見ている。
「くそー、近くの野郎共が邪魔だな。」
「ああ、変な外人は兎も角、大石と近松。あの2人が厄介だ。」
「全く、奴等が居なけりゃ、力ずくでなんとかなんのによ…」
この3人組も食糧調達班に参加していた。が、本人達にとって大阪脱出作戦に興味など無いのだ。目的は「女」だった。
作戦のどさくさに紛れて女を拐い、いかがわしい事をしようとしているのだった。彼等も地下での生活でかなりストレスが溜まっているのだ。この3人は、今回の一件を、それを発散するいい機会が来た位にしか思っていない。
普通だったら犯罪だが、今の大阪は無法地帯と言っても差し支えない状態だ。故に、乱暴を働いても、取り締まるおまわりも居ない。働いた後、口封じしてしまえば良い。行方不明となっても、蚊の犠牲となったと言う事で方が付く。この3人はそう考えているのだ。
この3人は、元から質の悪いだった連中だったが、現在、歯止めとなるモノが無い事もあり、ここに来て明らかにエスカレートして来ている。
「でよお前等、目当ては誰だ?俺は双子の姉の方だ。」
「船森もか、俺もだよ。あれは、中々の上玉だぜ!」
「俺は妹の方だな。あの気の強さ、そそるぜ!で、無理やり押さえ込んでから、思いっきり…」
「良いね良いね!泣き叫ぶ顔が目に浮かぶぜ、へへへ…」
「あー早くチャンス来ねーかな…」
と、3人がゲスな会話をしている後方から、近づく者がいた。
「アンタ達、随分と楽しそうじゃない。」
「!!げ、テメーは!」
いたのはいつぞや、自分達をボコボコにした女、齋木紫苑だった。彼女は前回と同じ様に、3人を軽蔑する顔で見ている。
「何の用だよ?」
「別に、あんた達に用はないはよ。ただ、普段何もしてないあんた達が、作戦に参加しているのが気になって、様子見てたのよ。」
紫苑はカエデ達の方をチラッと見た後、視線を船森達へ戻した。
その目は、疑いの目をしていた。
「で、彼女達がどうかしたのかしら?」
「ぐっ、テメーにはカンケーねーよ。行くぞお前等!」
そう言うと船森達は移動していった。それを見送った後、紫苑はカエデ達に合流した。
「クッソー、あのアマ!また俺等の邪魔しやがって…」
「本当、腹立つぜ!」
「痛い目に遭わせてやりてーな。」
「イイな!そうしてやろうぜ!」
「ああ、心と体に、一生消えない傷をつけてやらー!」
あれだけやられたのに全く懲りていない3人。何とか復讐してやりたいと悪だくみを考えている。
「つってもどうする?あの女、見かけによらず強いぞ⁉」
「確かに、何か武器になる物はねーか?こうなりゃ、空きを付いてやってやろーぜ!」
「それは良いけどよ、元々百貨店だから、大したものねーぞ…」
「そうだ、消化器はどうだ?それを奴にお見舞いしてやれば、怯ませる事が出来るはずだ!そこを押さえ込んでだ、後は力ずくで!」
「いいアイデアだ!よし、探せ!」
そう言うと船森達は消化器を探し始めた。
「何処だ、何処だ?」
「消防法等で、延床面積にもよるがこういった施設には、設置が義務付けられてるはずだから、絶対あるはずだ。」
この男、ろくに学校に通っていなかったが、何故かそう言う知識だけはあるのだった。
と、言ってる内に目当ての消化器は見つかり、何本か集まった。それを見てニヤニヤしだした。
「よーしこれだけあれば、十分だろ。」
「ああ、あのアマ見てろよ!って、アイツは?」
「そういや、いねーな。どこいったんだ?」
と二人がキョロキョロしてると、奥から足音と共に、最後の1人が歩いてきた。が、様子が変だ。フラついている。
「おい、何やってんだ?」
「いや待て船森、何か様子が変だぞ?」
そう言うやいなや、男は倒れた。背中は血で染まっている。
「!おいどうしたんだ⁉」
そう叫ぶやいなや、羽音が聞こえて来た。
「まっまさか…」
そのまさかだった。奥から蚊の群れが、自分達のいる方へ、次から次へと飛来してくるのだった。