実力行使
「この紙、テメーが投げたのかオイ?!」
「他に誰がいるの?」
紫苑は相変わらず3人組を軽蔑した顔をしている。
「このアマが!調子に乗りやがって!」
船森が近くにあったホルマリン漬けの瓶を掴み取ると、紫苑に投げ付けた。走達は「危ない!」と叫びそうになったが、間に合わなかった。瓶は紫苑の顔に飛んでいった。が、
ガシッ!
「何?!」
瓶は彼女の顔に当たる前に受け止められた。
「乱暴に扱わないでくれる?口だけで何にもしてないくせに。」
「あっ!」
「これは外に出た人達が、命がけで採取して来てくれた大切な資料なんだから。文句は缶詰の一つでも取って来てから言いなさい。高校生の女の子達ですら調達に出てくれてたのよ。」
この言葉に3人の男達は完全に頭にきたらしい。声を荒げて叫んだ。
「テメー!言いたいだけ言いやがって。」
「船森、こいつ図に乗ってるぜ。」
「少し、痛い目に合わせた方がいいんじゃないか?」
「確かに。俺等の怖さを教えてやらないとな。」
そう言うと、船森は両手をパキパキと鳴らした。完全に実力行使に出る気だ。
しかし、それを察してか紫苑は部屋の外を指差し、
「ここは駄目よ。部屋の外に出なさい。」
「へへへ。よーし、いいだろう。」
ニヤニヤした3人の男達と紫苑は部屋から出ようとする。走達が止めさせようとするも、紫苑は掌を走達の方に向けて逆に静止した。そして、
「大丈夫よ。」
そう言って出ていった。
「大丈夫って…相手は大の男3人だぞ…」
「無茶だぞ…」
「走、よっちゃん。助けなさいよ。」
「カエデ…そうだな。このまま黙っていられないな。」
「ああ、行こう。」
カエデに急かされ、走と正一は覚悟を決めた。が、水を指すように高倉が、口を開いた。
「あー彼女なら、多分大丈夫だと思うよ。」
「何言ってるんですか、高倉さん。このままじゃ彼女何されるか…」
そう抗議した時、外から叫び声がしてきた。しかし、それは男の声だった。走達が慌てて部屋から出ると。するとそこには、
「がっ…はっ…」
「へっ?」
船森の取り巻きの男2人が、倒れてうずくまっていた。
「これは一体?」
走達が不思議な顔をしている。
「くっ、テメー…よくも…」
「口程にもないはね。」
近くで紫苑と船森が対峙している。船森が紫苑に殴りかかった。しかし、紫苑は軽くかわした。尚も船森は攻撃を続けるが、紫苑は見事なフットワークで避け続けている。
「気が済んだ?それじゃ、こっちの番よ。」
そう言うやいなや、紫苑は船森の腹に蹴りをお見舞いした。痛さに顔をしかめた船森は腹を押さえながら膝を地についた。
「がっ…」
苦痛にうめき声を漏らす船森。それを見下ろす紫苑は構えをしている。素人目にも、スキが無いと解る。
「っ、強えー!」
「あの構え、それに先程の足技…あれはテコンドーだ。」
「テコンドー!韓国の足技を主体とした格闘技のテコンドーのこと?」
「ああ、通ってる大学にテコンドーのサークルがあってな、先輩に誘われて試合を見物したことがある。格闘技には詳しくないけど、彼女、かなり強いぞ!」
正一はハッキリと断言した。