齋木紫苑
「ふむふむ、なる程、確かに興味深い話だは。」
彼女は走達の話を聞きながら、メモ帳にペンを走らせた。その目は走達には生き生きして見えた。
齋木 紫苑
幼少時、蟻の観察をしたのを皮切りに、生物学に興味を持つ。小学校の理科の授業だけでは満足出来ず、独学で学び始める。中学生時には遺伝子の分野にも視野を広げ、研究を始める。そして、高校時代に遺伝子研究で大発見をし、一躍時の人となる。そして、推薦で生物学で国内最高峰の大学に進学。そこでも研究に没頭する。そして例の日、大阪の大学に現在進めている研究に関しての用事があり、出向いた矢先に事件に巻き込まれたと言う。
「OK。大体の事は分かったわ。」
そう言うと彼女は後に振り向き、手を伸ばした。薄暗かったので気が付かなかったが、そこにはノートパソコンが置いてあり、彼女がボタンに触れると画面が明るく光りだした。そのままメモを片手にパソコンにデーテを打ち込みだした。
「ブラインドタッチか。しかも片手でスゴイ速さだ。」
「流石、天才ね。」
「ああ。てかおい、俺等放ったらかしかよ。話してやったのに、礼の一言も無いのかよ。」
走が文句を言うも、彼女は無反応だ。すると高倉が、
「生憎だが、彼女は研究の事になると周りの事に無頓着になるんだ。没頭するあまり、食事は愚かトイレに行き事も忘れるらしい。」
「そんなに集中するんですか。」
「あぁ、ここだけの話そのせいで友達は少ないらしい。」
だろうな。と3人は思ったが口には出さなかった。するとそこへ
「邪魔すっぞ。かー相変わらず気味の悪い部屋だな。」
「全くだな。女が使ってるとは思えねーな。」
「本当、息が詰まるぜ。」
ガラの悪い3人組の男がズカズカと入って来た。
「又、君達か。」
「高倉さん。あの人達は?」
「ここに身を寄せている人間の一組だ。見ての通り、ガラの悪い連中でな。食料調達に行こうともしないくせに、少ないと文句言って、他の人の分に手を出す厄介な奴らだ。皆、迷惑しているんだ。」
「おい、聞こえてっぞクソジジイ。まあ良い。それよりもよ齋木。こんなとこで引きこもってないでよ、俺等と良い事しようぜ。」
「そうだそうだ。船森のあそこは馬並みだぜ!」
「ついでにそこのボーイッシュなチャンネーも一緒にどうだ?」
3人組は齋木だけでなく、カエデにもチョッカイを出してきた。最も齋木はというと、相変わらずパソコンの画面を凝視していて、無反応だったが。
どうやら3人共地下暮らしてストレスが貯まっているようで、それを彼女達で晴らそうとしているらしい。
「お会いにく様。間に合ってるから結構よ。」
「もしかして横にいる奴等の事か?そんな奴等より俺等とやろーぜ、なー!」
「待て、カエデに手を出させねーぞ。」
「そうだ、カエデはお前らには勿体無い。」
走と正一がカエデを守る様に前に出た。
「何だ、お前等。もしかして、騎士気取りか?」
「俺等とやろうてのか、オイ!」
男達が走達を威圧してきている。強気に出たが、走も正一も全く喧嘩などした事が無い。ハッキリ言って、腕っ節は弱い方だ。まずい状況だったがそこへ、丸めた紙が飛んで来て船森の頭に当たった。
「なっ、誰だ!紙グス投げたのは?!」
「五月蝿いわよ、アンタ達。ここはアンタ達が来て良いような所じゃないのよ。」
パソコンにデーテを入力し終えた齋木が3人組の男を軽蔑の眼差しで睨みつけた。