ラーテル
「と、言う訳です。その後も私達はその変異種と何度か遭遇しているんです。」
更に話を聞くと、その後も食料調達の為、外に出た者達の何人かが、変異種と遭遇しているのだという。
針から毒液を、プロレスの毒霧殺法の如く吹きかけてくる個体、カブト虫みたいな角やクワガタムシみたいなハサミが頭にある個体等、様々な個体を確認しているという。
誰が付けたかは、分からないが、何時しかその異形な能力を持った蚊を変異種と呼ぶ様になったのだという。
「なんだよそりゃ。にわかには信じられないぞ…」
「いやまて走!俺等も遭遇してるぞ。変異種に!」
「よっちゃん、それってまさか亀山の…」
「カメヤマ?ナンですかそれは?」
ブライアンが聞いてきたので、走達は、亀山で遭遇したと蚊の事を話した。生き物を見境無しに襲い、毒針を持ち、殺虫剤にすぐさま抵抗を得た蚊の話を。
「殺虫剤が効かなくなったですって?!大きさの時点で、普通じゃないけど、尚の事普通の虫じゃ無いわね。」
「まるでラーテルみたい…」
「ラーテル?」
「聞いたことあるぞ、南アフリカに生息する動物で、コブラの様な毒蛇に噛まれても暫く動けなくなるだけで、数時間後には復活する程毒に対して高い免疫を持つ生き物だ。」
「マジか?!そんな生き物がいんのかよ。」
「有希子さん達の話だと、変異種の蚊は他の生き物の能力を持っている訳だ。今思えば、あの時の蚊はラーテルに似た能力を持っていたのかもしれないな。」
「ますます訳がわからないは。何でそんな蚊が、ここ大阪で大量発生しているの?」
「これは俺の感なんだが…これらの蚊は、人為的に生み出されたんじゃないかと思うんだ。」
「人為的にって…どういう事だよ、よっちゃん!あれら得体のしれない蚊が人の手で造られたとでも言うのか?そんなSF映画じゃあるまいし…」
「俺だって考えたくないが、そうでないと説明できないだろ。蚊が巨大化し他の生物の能力を持つなんて、突然変異の一言で片付けられない。誰かが、遺伝子操作で作り出したって言う方がまた自然だと俺は思う。」
「ふむ、イデンシソウサ…ですか…」
場が静まったが、その直後、
「その話、もう少し詳しく聞かせてくれないかね?」
「アンタは!確か、高倉さんだったな。」
そこには、いつの間にか高倉が立っていた。高倉は話を続けた。
「君達の遭遇した変異種について、向こうで話を聞かせて欲しいんだが、いいかね?」
「僕は構いませんが…」
正一に続き、走とカエデも了承したので3人は有希子達と別れ、奥へと進んだ。その最中、正一が走に小さい声で話し掛けた。
「走。前を向いたまま、小声で話してくれ。」
「何だよ、よっちゃん?」
「ブライアンさんの事だ。あの人、警戒した方かいいかもしれないぞ?!」
「どういう事だよ?何であの人に…」
「さっきの俺等の話を聞いてる時のあの人、顔付きが変わっていたんだ。それまで陽気な顔をしてたの。特に遺伝子操作って単語が出た時、僅かだが目付きが鋭くなっていた。あれは普通の目付きじゃない。」
「マジかよ?気が付かなかったぞ。何者なんだ、あの人…」
「解らないけど、警戒した方かいいかもだ…」
「分かった。念の為、この事は俺等だけの秘密だぞ。」
2人密かに密談しながら奥へと入って行った。2人の中で、新たな謎が生まれた。