変異種
変異種。突如出て来た言葉に走達は少しの間トランス状態になり考が止まった気がしたが、直ぐに持ち直し、質問を続けた。
「その変異種って言う蚊だが、君達は以前にも遭遇したのか?」
「ええ、何度かね。最初に遭遇したのはここに身を寄せた次の日よ。その時はまだバリケードを何重にもしてなかったの。」
登紀子の説明によると、例の日の次の日つまり、今から9日前の朝の事だった。前日の事で身を寄せた人達全員が、突然の事態にパニック気味だったのと疲れで、その日はとりあえず、バリケードを作るだけで終わり、皆寝てしまった。
そして朝を迎えた。起きて多くの人が夢でなかったことを落胆していた。その時、近くのバリケードの向こう側から音がした。それも何度も。
誰かが「助けが来たのかも」と淡い期待を抱き、バリケードの隙間から覗き込んだ。その時、隙間から針が飛び出した。針は覗いていた男の顔をかすめた。針はただ飛び出しただけではなかった。針はその場でクネクネと動いている。まるで象の鼻の様だったらしい。その時気付いたが、バリケードの向こう側からかすかだが羽音がしていた。
誰かが「蚊だ」と叫んだ。パニックになるも、何人かは冷静にバリケードを作った時の余りを手に取り、象の鼻の様な針を攻撃した。たまらず蚊は退散した。針を残して。
「針を残して退散した?まるでトカゲの尻尾みたいだな。」
「あたし達もそう感じたは。残された針はその後も暫くの間、動き続けたらしいは。」
その経験から、彼等はバリケードを2重3重に張り、合図で中の人間に確認を得ないと入れてもらえないルールが設けられたという。先程、有希子達が帰った時の流れは、その為だ。
「それから少しして、食料が無くなったので、食料調達に出かけてた人達がいるんですが、その人達が遭遇したと聞きています。」
変わって有希子の説明によると、最初に食料調達にでかけた数人が戻ってきた際に聞いた話だ。食料をかき集め、隠れ家に帰ろうとした際に、蚊に遭遇してしまった。
当然、遭遇した人達は死にものぐるいで抵抗した。身の回りにあった物を手当たり次第投付けた。その抵抗に流石の蚊も近づけないでいたが、その内一匹の蚊が突如、針を吹き矢のように飛ばしてきたのだった。その針が1人の腕に刺さってしまった。刺さった男は悲鳴を上げその場で転げた。見ると針の刺さった場所が紫色に変色している。その場にいた全員が、毒だと察した。「毒針を飛ばす蚊何て聞いた事ない」と、動揺した為抵抗が止まり、そこを狙って蚊が襲いきってきた。
毒針が刺さった男と、介抱しようとした男はそのまま、蚊の餌食となり、残ったら者達は死にものぐるいで逃げて、何とか隠れ家に戻ってこれたと言う…