10日前
更にバリケードをくぐって先に進み、その最中に話を続けた。
この場で出会った2人の男。
名前は大石 防と近松 修一。府内の体育大学の学生で、それぞれ空手部とボクシング部に所属しているらしい。何よりもこの2人が、例の日に新堂姉妹を蚊の大群から助けたのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
遡る事10日。大阪難波。例の日、多くの人が突如現れた巨大な蚊に襲われていた。その中に新堂姉妹も居た。
「ハーハー…」
「足が…つりそう…」
必死に逃げていた2人だったが、限界が訪れていた。最早、立っているのも辛いくらいだ。しかし、立ち止まったら死ぬ。その恐怖が二人を支配したものの、もう体が言う事を聞かない状況だ。道端で遂に2人は倒れ、その場で激しく息切れを起こしている。が、蚊達は2人のコンディションなどお構いなしと言わんばかりに、彼女達に接近してくる。そしてその内の一匹が2人に襲い掛かった。
「くっ来る!」
「もう…駄目…」
2人は死を覚悟し目をつぶった。しかし、その瞬間
「ハッ!」 ドガッ!
男の声と鈍い音が2人の耳に入った。目を開くと自分達とそんなに年の変わらない男が何かに横蹴りを放った姿をしていた。そして、足を向けた方向に2人を襲った蚊が倒れている。ピクピク動いているのでまだ死んではいないらしいが、もうまともに飛べそうではなかった。
「大丈夫か君達?」
「え、えぇ…何とか。!危ない、後ろ!」
男の後方から別の蚊が襲い掛かって来ている。が、その蚊は3人の元に来る前に、
「おりゃ!」 グチャ!
横から入ってきた別の男が力一杯放った拳をまともに受け、これまた鈍い音を立てて、殴り飛ばされた。殴られた蚊は片方の羽を失い、先程の蚊の近くに転げ落ちた。
「凄い、素手で蚊を。」
「修一、彼女達を。」
「おう!」
「あの、あなた方は?」
「話は後だ、一先ずこの中に。急げ!」
そのまま2人の男に守られ、姉妹は小さな雑居ビルに入った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
大阪難波 現在
「と、言う訳で、おかげであたし達は助かったの。」
登紀子がそう言って、回想を締めくくった。
「へーすごいな、まさにヒーローみたいじゃないか。」
走が興奮気味に2人を讃えた。
「いいえ、当然のことをしたまでですよ。」
「まもるの言うとおり、日頃から鍛えた力を正しく使ったまでだ。」
「いやいや、俺らには到底真似できないよ。」
「そうよ、カッコいいわよ。男らしいじゃない。」
走達に褒められ2人はまんざらでもない顔をした。
「あっこのバリケードの向こう側が、私達の居住区です。」
3つ目のバリケードを潜ると、そこには老若男女、多くの人々が居た。キャンプで使うテントを張っている者、段ボールで自分のスペースに小屋の様なものを作っている者、ただ単に地べたにシートを敷いてその上で布団に包まっているだけの者等、様々だ。
電気はあるらしく、薄暗いが懐中電灯無しでも動けるだけの光源はある。有希子は懐中電灯を消した。それと同時に走達に話し掛けてくる者がいた。