走馬灯
時は遡り、新堂有希子・新堂登紀子、共に15歳。
今日、この春から通う高校の制服が届き、早速、新品の制服に袖を通している。
実際に着るのは店で採寸してもらい、試し着した時以来だ。
「ねえ有希子、ネクタイってどうやって付けるんだっけ?」
「採寸の時、一緒に教わったでしょ?」
「もう忘れちゃったわよ、だから教えてよ。」
「もう、仕方ないわね…ここをこうやって、そしてこうよ。」
登紀子は有希子にネクタイを付けてもらい、そしてブレザーを羽織った。
「うん、中々いいじゃん♡」
「1人で出来るよう覚えときなさいよ。何時でも2人一緒って訳にはいかないんだから。」
「ハイハイ。」
登紀子は軽く返した。
「分かってるの?」
「分かってるって。でも、あたし達ってさ、胎児の時から高校までずっと一緒よね。」
「そうね。それは双子なんだし、お母さんの体内にいた頃から一緒よ⁉」
「でも、流石に社会出たら離れ離れになるのよね…」
「どうしたの?珍しく難しい顔して、しんみりしちゃって。」
「あっ、いや、何でもないわよ登紀子。将来のこと考えたら何か気が重くなっちゃってさ。」
「登紀子!あなたが将来のこと考えるなんて…熱でもあるの?」
そう言いながら登紀子の額に手を当てる有希子。熱は感じられなかった。
「無いわよ、失礼ね!」
「だって、あなたらしくないし…」
「あたしだって、将来の事くらい考えてるわよ!」
「本当?あなたって、細かい事は一切気にせず、何かあったら、その時に考えればいいって感じの、計画性のない生き方だから…」
「人を両○○吉みたいに…全く…まあいいは。それは兎も角、せっかくだから記念写真撮ろうよ有希子!」
2人は制服姿で記念写真を撮った。
スマホを自撮り棒に付け、
「撮るわよ、1+1=」
「「2!」」
「中々可愛く、キレイに撮れたわね。」
「登紀子、私のスマホに送ってよ。」
「OK!それじゃブルートゥースで送るよ。」
2人は制服姿の記念写真を見て、実に楽しそうにしている。その後、制服を脱いで普段着に着替えた後も、登紀子は先程の写真を見つめていた。当時、まだ登紀子は茶髪にはしていなかった。なので写真の中の2人は髪型が違うだけで、それ以外は瓜二つだ。登紀子は改めて自分達が双子である事を再認識した。
「ねぇ有希子。」
「何?登紀子。」
「あたし達は双子の姉妹。この先どんな事があっても、離れていても心は一緒だからね。」
「⁉何言い出すのよ、さっきから変よ…まさか!あなた家出でもする気なの?」
「違うわよ。ただ、そう思っただけよ。」
「何それ?変な登紀子…」
「取りあえず、これ待受にしようよ。揃いで。」
「いいわね。そうしよう。」
2人はスマホを操作し、先程の写真を待受に設定した。
2人のお揃いのスマホの待受画面上には、同じく揃いの、制服姿の2人が笑みを浮かべていた。
「あー、早く新学期にならないかなー。」
「何言ってんのよ、勉強嫌いで何時も学校なんて面倒くさいって言ってるくせに。授業中も、居眠りしたりして…」
「で、後々、有希子も先生に一緒に注意されるのよね!」
「そうよ!姉の私の方からも、言っておくようにって…」
少しムスッとした顔をする有希子。
「それでも、やっぱ揃いで新しい制服着て、一緒に登校するの、何か楽しみなのよ。」
「まぁ、確かにね。」
「まっ、宿題とかは任せるから宜しくね有希子。」
「宿題は自分でしなさい!全く…」
「「ふっ…ははは」」
2人は声を合わせて笑い出した。
「本当、登紀子は成長しないんだから。」
「妹助けるのは、姉の約目でしょ。」
「都合のいい時だけ、妹ぶらないの。」
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そんな感じて2人は生まれた時からずっと一緒だった。
だが、2人の時間は間もなく終わる。登紀子そう感じていた。
登紀子は複数体の蚊に囲まれている。逃げ場は無い。蚊の羽音が、恐怖を倍加させている。
「とっ、登紀子ー!」離れた所から有希子が涙声で叫んでいる。有希子は登紀子の元に向かおうとするが、剣持が取り押さえている。
蚊の一匹が動き出した。登紀子は自分の最後を覚悟した。
「…有希子…さよなら…」
登紀子は目を食いしばった。
が、その時何処からか車の音が響いて来た。そしてエンジンを激しくふかしながら古ぼけた車が猛スピードで走ってきた。
「えっ、何?…」
突然やって来た車に蚊も反応したのか、登紀子を襲うの動きを止めた。そのまま車は登紀子の側に停車し、ドアが開くと中から男が飛び出し、蚊を目掛けてスプレー缶を向けた。