日本刀
「君たち、どうだい食糧の方は?」
「あっ、袴崎さん。」
「取りあえず、こんな感じ。」
2人は集めた食糧を男に見せた。
男の名前は袴崎 翔ニ、2人と共に食糧調達に来たメンバーの一人だ。背中には長い布袋を背負っている。
「十分だ。それじゃあ、隠れ家に戻ろう。」
「剣持さんは?」
「外で見張りをしてるよ。何かあったら叫ぶよう言ってある。」
「それじゃあ、早く戻りましょ。」
3人は外に出た。外には袴崎と同じく長い布袋を背負った男がいた。名は剣持 旭。袴崎と剣持は同じ大学の学生で、剣道をしている。
この2人もまた、例の日、共に難波に来ていて、事件に巻き込まれてのだ。
「成果はどうだ?」
「こんなところです。」
「十分だ、こっちも色々と調達出来た。さっ、長いは無用だ。早く帰ろう。」
「ああ。暗くなったら更に危険だしな。」
4人が帰路につこうとしたその時、嫌な音が聞こえて来た。その音に、4人は顔色を変えた。
「来たか。気をつけろ!」剣持が叫ぶ。
その直後、前方から複数体の蚊が飛んで来た。蚊は獲物を察知すると共に先頭から襲い掛かってきた。
「はっ!」
剣持と袴崎が布袋から素早くある物を取り出し、蚊に対し振り下ろした。
ガッ!
その音と共に蚊は切り裂かれた。
2人が構える武器、それは侍の魂と言われる日本刀だった。
とはいえ、元は本物ではない。模擬刀に色々と手を加えて作った代物だ。当然、切れ味は本物には遠く及ばないが、蚊相手なら十分だ。元より剣持と袴崎は剣道部でも主将・副将を務める実力者ゆえ、蚊を相手に渡り合えるのだ。
「でぃ!」
「とぉ!」
2人は威勢のいい声と共に、次々と襲い掛かって来る蚊を切り捨てた。
「凄い…真っ二つにしちゃった。」
「この人達と来ていて正解だったね有希子。」
2人が感心している間に、蚊は一通り倒し終えた。
「片付いたな。」
「ああ、だが安心するのは隠れ家に帰った時だ。早く戻ろう。」
しかし、安心したのもつかの間、また羽音が聞こえて来た。
「くっ、新手が来たか。」
「そんな、また!」
そう言っている間に、次なる蚊が来た。
しかし、先程の群れと違い4匹程しかいない。
「切りがない、逃げるぞ袴崎。」
「いや、どうせだ。4匹位だ。奴らも此処でたたっ切る。」
「何言ってる。これ以上は危険だぞ。」
しかし、袴崎は蚊の群れに向かって行った。
「何を言う。武器の分、リーチはある。」
「袴崎さん、戻って下さい。」有希子が心配そうに叫んだ。
袴崎は自分と蚊の間の距離を確かめてから振り返った。
「心配無用だ。剣道部副将だ。デカくとも蚊に遅れは取らな…」
グサッ!
鈍い音がその場に響いた。
「!な…何…」
袴崎は一瞬、何が起きたのか分からなかった。蚊の群れに視線を戻し、理解した。蚊の群れの先頭の一匹の針が、紙パックのジュースについている、伸ばせるストローの如く、いや、そんなレベルでは無い位異様に伸びており、それが自身の胴体に突き刺さっていたのだった…