逃
今年、初の投稿です。今年も超スローペースになると思います…
「なっ何なのこれ?…」
有希子はこの状況がまだ受け止められず、その場で凍り付いてしまった。目の前で次々と人が死んでいく。少し前までなら漫画や映画とかでしか見ることのなかった光景が彼女の前でリアルに起きている。グロいものが苦手な彼女は意識を失いかけた。
しかし、その前に腕を引っ張られた事で、失いかけた意識が戻った。
「⁉」
「何ボケっとしてんのよ有希子!早く来なさい!」
有希子は双子の妹の登紀子に腕を引っ張られ、それに合わせて走り出した。
「登紀子、何なのあれ!?」
有希子は走りながらも、後ろを気にしながら言った。
「あたしが知りたいわよ、そんな事!とにかく、今は逃げる事だけ考えるのよ!」
2人は大阪の町をただひたすらに駆け抜けてた。
突如現れた蚊の大群に襲われる人々。あちらこちらから悲鳴が聞こえてくる。蚊に刺された人は先程のアイドルの様に干からび死んでいく。
一度でも刺されたらアウト。死が待っている。巨大な蚊の大群が現れ人を襲うという、訳のわからないが事態だが、それだけは確かだ。
登紀子に腕を引っ張られ有希子は走った。しかし、アウトドア派の登紀子と違い、インドア派の有希子は、体力があまり無く、直ぐに息切れしだした。
「ハーハー…登紀子…私もう走れないよ…」
「弱音吐いてんじゃないわよ。死にたいの⁉」
「うぅ、それは…」
有希子は後ろに目をやった。
二人の後方では老若男女問わず、次々と人が蚊に刺され、干からび死んでいく光景が広がっている。有希子は見るに耐えなく、直ぐに視線を前に戻した。そして、死にもの拭いで足を動かした。
「分かったら、死ぬ気で走んのよ!」
登紀子の、有希子を引っ張る手の力が更にましたのを有希子は感じた。
「ごめんね登紀子。生きて帰れたら絶対に、体力付く事始めるから。」
「謝んなくていいから、行くわよ!」
2人は特に避難先等の宛があるわけではないが、ひたすら走った。2人に限らず、全ての人たちが宛もなくただひたすら、蚊から逃げる事ばかりを考えているのが現状だ。
しかし、虚しくも蚊に追いつかれ、また一人と命が消えていく。
走り続ける2人だったが、登紀子の方も体力的に限界が来ている。二人とも息が荒い。
そんな時、
ドン!
と後方から来た男が登紀子にぶつかった。登紀子はバランスを崩し、有希子諸共、転倒した。
「キャッ!」
「痛ー!」
「邪魔だ!」
登紀子はぶつかった相手に目をやった。それは先程まで、橋で大道芸をしていた男だった。
「何すんのよ!」
登紀子は男を睨みながら叫んだ。
「うるせー、邪魔なんだよテメーら!」
大道芸人の男は先程の観客へ笑顔で愛想よく接していた時と打って変わって、悪びれる様子もない顔と言葉遣いだ。
先程までのは営業スマイルで、これが本性の姿なのだろう。
「テメーらはミイラにでもなってろ。その隙に、俺は逃げる。」
「⁉なんて奴…」
「じゃあな、あば…」
グサッ!
「よ…いっ…」
しかし、大道芸人の男は、建物の路地裏から現れた蚊に首筋を刺された。そのまま男は、皆と同じ様に干からびていった。
それを見た登紀子は、顔を青ざめさせた。
「くっ、ほら有希子!起きて早く!」
登紀子は有希子を立ち上がせると再び走り出した。
後方では、今まで以上に蚊が増え、迫ってきている。
「はーはー…」
「登紀子…もういいよ、私を置いて逃げて…」
「‼何馬鹿なこと言ってんのよ、アンタ!」
「でもこのままじゃ2人共…」
「兎に角、這いつくばってでも逃げんのよ。」
「登紀子…」
蚊の羽音は更に大きくなっている。その音がより一層に恐怖を増加させた。普段気の強い方の登紀子も、涙目になっている。
「くっ、本当何なのよこれは!悪い夢なら覚めてよ!」
彼女の悲痛な叫びが血にまみれた大阪の町にこだました。
しかし、それすらも、直ぐに蚊の羽音によって、かき消された。




